四日目

こ、この子、どこまでわたしのこと‥

 修学旅行も四日目を迎えて今まで疎遠だった生徒同士の気心も知れて、バスでの移動中も賑わいを見せるようになる。
 長い移動時間を潰そうと車内のアナウンス用のマイクを使ってカラオケにまで興じるほどだが、それを注意する野暮な真似をするような慶子ではない。しかし今は別の理由でそうした生徒たちのお祭り騒ぎを黙認していた。
「いやー、盛り上がってますなあ」
 自分たちの後ろで盛り上がる級友たちを見やり、今日も担任教師の隣席を定位置にのんきに話しかけるのはクラス一、いや学校一の問題児であり今回の修学旅行でも桂木先生が監視役として任ぜられている菊丸だ。もっとも今は立場が逆となり、修学旅行初日から体調を崩している桂木先生の介助役を買って出ていた。
「‥、‥っ」
 声をかけられた女教師といえば、いまだに調子が戻らないのか窓際の席にぐったりと腰を掛けたまま何かに耐えるように小刻みに震えて押し黙っている。
 と、菊丸と視線のあった生徒の一人が「菊丸、先生、うるさがってないか?」と些か羽目を外しすぎているのを自覚しているようで、声をかけてきた。
「心配するなって。そこまでうるさくないってさ。ね、先生?」
「え、ええ。だ、大丈夫よ。わたしのことは気にせず、みんなで楽しんでね」
 これまで口を噤んでいた女教師も生徒に心配はかけられないと、健気に答えるのを生徒たちも一瞬は静かになったがまたすぐに盛り上がりを見せるのだった。
「みんなもこれで気にせず楽しめますね。もちろん、先生ももっと楽しんでくださいね♪」
「い、いいかげんにしてっ?! い、いつまでこんなこと‥っ」
 ニマニマと笑みを浮かべる菊丸の腕を掴み、キッとすごい目つき教え子を睨みつける桂木先生の美貌は紅く染まり、額にはびっしりと汗が浮かんでいる。掴まれた菊丸の右手は女教師のスカート奥に差し込まれていた。
「いやー、昨日はずっと紐を酷使しちゃったじゃないですか。だからこうやって切れないようにぼくが微調整しておかないと」
「よ、余計なお世話よっ、そ、そもそもあんたが変なことしなきゃ‥ぁ、あっ、いやぁあん」
 人の好意に文句をつける恩知らずな担任教師を懲らしめるように、菊丸が摘んでいた数珠紐を軽く上下に擦り上げると25歳の女教師がピクンと白い喉を見せて椅子の上で背を反らす。
「またそんなこと言って。だいたい下着を駄目にしたのは先生でしょ。他に穿くのがないからこうして数珠パンティまで作ってあげたのに余計なお世話って」
「あ、あっ! や、いやっ、こ、擦らないでっ」
 言いながら紐を擦り続ける菊丸の腕をギュウッと掴み、慶子はさっきまでの強気もどこへやら、亜麻色の髪を打ち振って嫌々をする。
「昨日だって数珠紐のせいで気分が悪いって言うから、一日かけて調整してあげたのにさ」
「そ、それが余計な、お世話ッ‥ぅ、くッ、うぅ、っ、やっ、いやぁあっ!」
「中居さんにまで迷惑かけてるんだから、少しは反省してください」
「ふ、ふざけ‥っ、あ、あんっ、いやんっ、擦るなって‥いって‥るぅッ!」
 いまだ反省の色のない女教師を叱りつけ、強めに紐を引っ張ると桂木先生は耳まで赤く染めてブルブルと全身を震わせた。
「えへへ。確かに「いって」ますなあ♪」
 悔しげに仰け反り続ける担任を楽しそうに見つめ、耳元でからかわれても慶子は「こ、このっ‥、ぅ、うっ、や、擦っちゃ駄目っていってっ、ひいッ」と膝を擦り合わせるしかできないのだ。
 バスに乗ってからすでに一時間。こうした問答を続けながら慶子は菊丸に女の急所を責め続けられている。
 それでなくとも菊丸の言うとおり、昨日は引率の途中で様子のおかしい慶子を心配した同僚たちがゆっくり休むようにと旅館へ戻してくれたのだが、その付添に手を上げたのがもちろん菊丸だ。邪魔の入らぬ旅館でたっぷりと数珠紐の再調整を施されて慶子は気が狂うかと思うほど泣き喚かされた。
 その火照りがいまだ燻っているのに、菊丸は相変わらず世話役気取りでこうして移動中まで焦らし抜くのである。

 

(でへへ、さすがにバスの中で本気は出せないからね~♪)
 昨日とは一転、ゆっくり、炙るようにして数珠紐を使って七つも年上の担任を可愛がりつつ、額に纏わりつく乱れ髪を払ってやりながらニンマリとほくそ笑む。
「‥っ、き、菊丸ウッ!」
 悔しくてならないのに、それでも生徒たちに気取られぬよう強い抵抗を封じられ為すがままにされ、せめてと教え子の名を呼んで眦を吊り上げ睨む表情の凄まじさときたら。
「そうそう。みんなにバレないように我慢しないと、ね♪」
「ひ、人をなんだと‥っ!」
「もっちろん、ぼくの可愛いペットですよん」
「あ、あんたって子は─っ、うっ、ぅうンっ、や、そこ、ダメッ!」
「うふ。無理しないの。旅行中、じっくり躾けてあげますからね~」
「し、躾ですって? ふ、ふざけ‥っ、あ、あ、あっ。あッ」
 あまりな言いように柳眉を逆立てる担任教師を、しかし菊丸は数珠紐一本で黙らせ、言葉通りに愛らしいペットを躾けてしまう。
(こ、こんな‥っ、あ、こ、子供のくせにいぃっ!)
 教師の、七つも年上の自分をここまで狂わせる教え子の恐ろしさを改めて思い知らされる。いや、それよりなによりおぞましいのは修学旅行の最中、生徒たちといるバスの車内だというのにこんなになってしまう自分自身だ。
「き、菊丸っ、きくまるっ、きくまるううぅっ!」
「はいはい、なんですか~? セ~ンセ♪」
「りょ、旅行から帰ったら、覚えて‥なさ、いッぃいっ! ひ、いっ、だめっ、いやっ、ま、またっ」
「でへ。またですかぁ? これで何回でしたっけ。いやあ、物覚えが悪くってすいません♪」
「そ、そうじゃないわよっ! お、お仕置きしてっ、‥あ、やっ、き、菊丸っ、慶子、またぁっ」
 押し問答の果て、またも座席の上で教え子の腕を太腿で挟み込み、仰け反る慶子に「あ、そうだった。先生へのお仕置き、これで八回目、ですよん」としっかり覚えていることをからかうのを忘れない。
「~~~~~っ」
 歯軋りしながら、ぜ、ぜったい許さないわっ、あとで必ずぅっ、と口にする担任に「はい、九回目♪」と駄目を押すと勢い良く数珠を慶子の弱点中の弱点へ擦り上げ、目を剥き叫ぼうとするのを唇を合わせて後ろの生徒たちの邪魔をしないように心配りを忘れない。
「っ、うっ、ぃ、やっ、ぁ、ぅムッ、むぅっん、ん、んっ‥ァはっ、ん、き、くま、るぅ‥っ」
 教え子に唇を奪われる屈辱も数珠紐に封じ込まれ、とうとう瞼を閉じて受け入れてしまう。情けないことに教え子とのキスがすっかり旅行中の日常に落とし込まれてしまっていた。
 功を奏して担任教師の異変は誰にも気づかれず。そして慶子自身、唇を奪われる屈辱のなか施されている菊丸の小細工に気づけないまま、教え子の口内に悔しさを喚き散らす。
(えへへ。焦らしてたから激しいこと♪ ちゃあんと責任持ってバスから降りても可愛がってあげますからね~)
 いつまでも口答えをする生意気な女教師に立場をわからせながら、手にした赤い糸を見やって頬を緩める。
 女教師を躾ける計画はまだまだ終わらない。果たしてお仕置きをされるのはどちらなのか。

い。いやっ、もういやっ! このままじゃほんとにわたしぃ‥

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