「家庭訪問は刺激的?!の巻」

 とある休日の昼下がり。明智宅の居間である八畳間で、学校一の問題児が教育熱心な女教師の個人授業を受けていた。
「できた? なに、間違いだらけじゃないっ。授業中なにをしてたのっ」
「ええっと、いずみちゃんにイタズラしてた、かな?」
「ふざけるんじゃありませんっ!」
「うひぃ」
 担任教師である桂木慶子に軽く叩かれ、菊丸は盛大に痛がってみせた。今のご時世ではなにかと問題になりそうな光景だが、このずんぐりとした生徒に対しては同情する者もあまりいない。被害者となった女性たちからは尚更である。桂木女史が鉄拳をもって制裁を加えたとしても、批難する者はいないだろう。

「ううう、なんで先生がウチまでくるんですか~?」
「あ・ん・た・の、せいでしょうが~」
「す、すみませ~ん」
 そう、慶子が好きこのんで菊丸の家になど来るわけがない。学期末の試験で大量の赤点をとりながら、補習にも出てこない不真面目な生徒のため、わざわざ休日を潰して自宅まで勉強を催促しに来たのだ。他の教員が尻ごむ中、まだまだ新任扱いの慶子が役割を押しつけられたのである。
 それでも真面目に勉強を教えようとする担任教師の優しさも、疲れた様子の菊丸にはまるで関係がなさそうだった。しまりのない顔にだらしない笑みを浮かべたまま、パラパラと教科書を進めているばかり。
「そりゃそのうち呼ぶつもりだったけどさ~。急すぎるんだよねー」
「なにをブツブツ言ってるの。まったく、せっかくの休みなのに……ほら次、173ページ!」
「ふへ~い」
「あはは。兄ちゃん大変だねー」

 にぎやかな居間にはもう一人、幼さの残る少年がいた。菊丸の弟、竹丸である。利発そうな顔立ちは愛らしく、つぶらな瞳は小学生らしい純粋さに輝いている。ずんぐりとしただらしない兄とは比べものにならないかわいらしさを前にして、慶子はいつものしっかりとした態度をとり戻した。
「竹丸くんも今日はおうちにいるの?」
「うん。お父さんもお母さんもでかけちゃってるから。ごめんね、桂木先生。せっかく来てもらったのに、おもてなしもできなくて」
 申しわけなさそうにうなだれる竹丸の姿は大人の保護欲を掻きたてるものだった。両親の不在を聞いて身構えていた慶子だが、この子がいるのなら大丈夫だろうと少しずつ緊張を解かしていく。
「いいのよ。先生として教育指導は当たり前のことだもの」
 自然と優しい笑みを浮かべていた。返された笑顔のほがらかさに、教育者としての理想まで思いだす。
「あ、ぼく、なにか飲み物もってくるね」
「うん。ありがとう」
 台所へと向かっていく竹丸の素直さに心が洗われるようだった。あのような子供たちばかりなら、自分も優しい先生でいられるだろう。

「それに比べて……」
 浮かべていた笑みを苦々しくしかめ、慶子はテーブルの下を覗きこんだ。正座した自分の膝先にいるのは、隣に座っていたはずの教え子だ。
「なにしてるの、あんたは!」
「え? い、いやぁ。先生がそんな堅苦しい格好だと、ぼくも勉強に身が入らなくって」
 警戒の思いは服装に現われる。今日の慶子はいつもより硬い印象を与えるスーツスカートを着用していた。上着まできっちりと着こんだ姿はいかにも真面目な先生然としたもので、色気も素気もありはしない。勉強を教えに来たのだから当然だというのに、菊丸は口を尖らせ不満を露にしていた。直後、ニンマリと笑ってみせる。
「もっとかわいい服に着替えませんか? ナースとかスッチーとか、バニーなんてのもあるんですけど――」
「ふざけるんじゃありません!」
 一喝と共に慶子はテーブルを強く叩いた。響いた音に負けない勢いで不真面目な生徒に言い募る。
「本当にもう、いつもいつも変なことばかりして!」

「あたっ。か、桂木先生?」
 振るわれるゲンコツもいつもより強い。竹丸と接したことで、慶子は理想の姿を思いだしていた。いつもいつも教え子にいいようにあしらわれていてはいけない。よいことは褒め、悪いことは正す。教育者とはそうあるべきではないか。
 教職を志した理由を燃やして敢然と菊丸に相対する。もうこんな不真面目な生徒に振り回されたりするものか。
「今日という今日は容赦しません。真面目に勉強するまで徹底的にしごきますからね!」
「ひええ?」
「こら、逃げるんじゃありませんっ。もう体罰も辞さないわよ」
「そんな、暴力教師なんて先生に似合わないよっ」
「愛の鞭ですっ。さあ、おとなしく勉強しな――」
「おまたせー。先生、冷たいお茶でよかっ、わっ?」

 畳を這って逃げまわる菊丸を追いかけている最中、戻ってきた竹丸とぶつかってしまった。お盆に乗せられていたペットボトルとコップが中身もろとも宙を舞う。
「きゃ?」
 三人分よりもずいぶんと多いお茶の雨は、慶子の頭上に盛大に降り落ちていた。
「やだぁ、びしょびしょ~」
「ご、ごめんなさい、先生っ。だいじょうぶ?」
「あーあ。なにやってんだよ、竹丸」
「ご、ごめんなさい、ぼく……」
 責任をなすりつける菊丸の言葉に、竹丸は素直にうな垂れてしまった。自分を責めている少年の姿に、慶子は意味もなく困惑してしまう。
「竹丸くんが悪いんじゃないわ。ちょっと、菊丸くんっ。元はといえばあなたが――」

「あーあ、先生、服までびっしょりじゃない。そのままじゃ風邪ひいちゃうよ。シャワー使ってください。替えの服は用意しておきますから」
 きっかけを作った張本人はそう言うと、咎める暇もなく逃げさっていた。相変わらず要領だけはいい。
「まったく、もう」
「……ごめんね、先生。ぼくのせいで……」
 呆れた呟きに応えたのは竹丸だった。素直な少年は小さな肩を落としうつむいていた。潤んだ瞳からは今にも大粒の涙がこぼれ落ちそうだ。
「竹丸くんのせいじゃないわ。私のために飲み物をもってきてくれたんでしょう? 先生とっても嬉しいわ。ありがとう」
「でも、そんなことしたから、先生濡れちゃって……」
 優しく気づかっても声の震えは強まるばかり。このままでは落ちこませるだけだろう。
 そう考え、慶子は切なくなる気分を強引に明るいものへと変えた。

「確かに、このままじゃ勉強も続けられないわね。竹丸くん、シャワー貸してもらえるかしら?」
「え?」
「それでこの話はお終い。ね?」
 陽気にほほ笑みウインク一つ。少し気恥ずかしかったが、少年の憂いを晴らす役目は果たせたようだ。
「うんっ。こっちだよっ」
 再び見ることのできた無邪気な笑みに引かれ、慶子は風呂場に連れられていった。
 ここが菊丸の家であることも、一時だけ完全に忘れていた。
 掛けられたお茶は三人分にしてはずいぶんと多く、少し話をしている間で下着にまで染みこんでいた。菊丸の家で裸になることに、慶子は少しだけ逡巡したが、竹丸に案内させてしまった手前、服だけを替えて出るのも気が引けてしまう。けっきょく、諦めて体を流した。
 軽くシャワーを浴び、脱衣所でタオル一枚を巻きつけた姿のまま、慶子はわずかに考えこんだ。カゴには替わりの服が用意されていたのだが、それをどうしても警戒してしまう。他人の服を着ることには抵抗を感じなくもないが、それでも好意で貸してくれるものに文句を言うような慶子ではない。

 問題は、用意したのが菊丸であるという事実だ。
「あの子がまともな服なんて用意するわけないのよね……」
 これまでの経験が当然の答えを口にさせる。下着が用意されている時点で普通ではない。どうせまたイヤらしいものなのだろうと手にとってみたそれは、
「……あら、ずいぶんおとなしいデザインね」
 広げてみたショーツは尻はおろか太ももまで覆う、ショートパンツかスパッツに近いものだった。生地は厚く少し硬い。装飾といえば前後につけられた硬いリボンが二つだけ。内側の素材は少し肌に張りつく感じで水着のような感触だった。
 ブラにしても造りは同じようなもの。カップは通常よりやや大きく、胸全体を柔らかく包みこむ構造だ。ベルトやストラップも幅広で印象はタンクトップに近い。なぜかホックの上部分に、ショーツと同じ硬いリボンがあしらわれていた。邪魔だと感じながらもつけてみると計ったようにぴったりだった。ヌーブラのような密着感が全体にあるが、決して不快なものではない。膨らみを自然に支えてくれる感覚は、スポーツブラよりも動きやすそうだ。
「でも、やっぱり地味ね。菊丸くんらしくない感じ」
 鏡に映った姿はこのままスポーツクラブに通えそうなほど軽快なもので、あまりにも洒落っ気がなかった。女として少し不満を覚えるほどだが、いや、と慶子は考え直す。今日は勉強を教えにきたのだ。女としての色気など必要ない。そう、別に、替えに用意していた少しきわどいランジェリーなど取りに戻る必要はないのだ。菊丸に見つかればお仕置きされてしまいそうなイヤらしい下着など……。
「先生ー」

「はいっ?」
 妙な考えに囚われかけたところを外からの声に引き戻された。まだ声変わりもしていない高い声で竹丸だと知れる。
「先生の着てた服、クリーニングに出してきたから。乾いたら届けてくれるって」
「そ、そう」
 扉ごしに聞こえてくるのは含みを感じさせない少年らしいもので、わけのわからない妄想をきれいに掃い清めてくれた。そんな想いを少しでも考えた自分が恥ずかしい。
「服、ごめんね、そんなのしかなくて。兄ちゃんの用意したのはイヤかなって思って、ぼくがもってきたんだけど」
「竹丸くんがもってきてくれたの? この下着も?」
「うん。お母さんのところにあった新しいやつだったから平気だよ。服もお母さんのにしたかったんだけど先生には大きすぎて。しかたないから兄ちゃんのお古を持ってきたんだ」
「菊丸くんの、お古?」

 言われて見なおしたカゴの中には、確かに新しい服も入っていた。広げてみたそれは古びた紺色のジャージ。胸と背中にゼッケンのように「明智」と書かれた布が張られている。動きやすさだけを求めたデザインに洒落っ気など望むべくもなく、古びた服は慶子が着るにしても若干小さい。生地が厚いので体のラインが露骨に強調されることはないが、手足の長さは足りない上にずいぶん締めつけられるだろう。
 そう考えた時、慶子の頭に別の不安がよぎった。菊丸の着ていた服を身につけるという事実に、全身をあのイヤらしい手で撫で回されるような錯覚を覚える。背に走る悪寒、肌が粟立つような感覚は、嫌悪や不快によるものだけではなく――
「やっぱり別のがよかった?」
 ドア越しの爽やかな問いかけに、再び襲いかかってきた忌まわしい感情を振り払った。お古とはいえ服は服だ。菊丸本人に直接触られるわけではない。そんなことを意識してしまうから、いつもいつもいいようにされてしまうのだ。もっとしっかりしなければいけない。菊丸を克服するためにはいい機会ともいえる。
「う、ううん。ぜんぜん平気よ。ありがとう、竹丸くん」
「ほんと? よかったぁ」
 自分の親切が役に立ったことが嬉しいのだろう。聞こえてきた声には心からの喜びが感じられた。純粋な少年を褒めたことで、慶子もまた教師としての充実を覚えた。そう、これこそが自分の求めているものだ。決して、教え子に体中をまさぐられることなどではない。
「それじゃ居間でまってるね」
「う、うん」

 遠ざかっていく足音を聞きながら、慶子は窮屈なジャージを着こんでいった。
「あれー? そんな服にしちゃったんですかー?」
 服を替えて居間に戻ると、期待のまなざしで待ち構えていた菊丸がわかりやすくがっかりした。いかにも不満げなその様に、慶子は少しだけ勝ち誇り、大人の余裕を見せつけながら座布団の上に正座する。
「勉強するならこれで十分でしょ」
「ぼくのやる気がでないじゃないですかー。言ってくれればナースでもスッチーでもバニーでも用意したのに」
 菊丸は未練がましく呟きながら古びたジャージを引っ張ってきた。ズボンのゴムは当然のように、上着までめくって背中をあらわにする。
「ちょっ」
「あーあ、下着までこんなのつけてるし」
「なにするのよっ」

「あたっ」
 遠慮や配慮などまるでない行いに、慶子は容赦なくゲンコツを落とした。躾けられていない犬のように悲鳴を上げて遠ざかる、これからまた勉強を教えなければならない相手のなさけなさに、思わず深い息を吐く。
 だから、密やかな菊丸の怪しい笑いと、背と尻につなげられた細いコードには、気づくことができなかった。
「もう、ひどいなぁ先生。すっかり暴力教師だよ」
「これは愛の鞭っていうのよ。叩かれなきゃ勉強しないような子がいけないの。いえ、そうさせてしまった私にも責任があるのよね……」
「そうそう、そうだよ。だからもっと優しくして――」
「だから、これからはもっと厳しくいきます! もうあなたのイタズラなんて通用しませんからねっ」
「えええ?」
 使命感を燃やす慶子にたじろいだ菊丸は、なだめるように手をひらつかせた。

「そ、そんなこと言ってぇ。先生だって楽しみにしてるんでしょ? もう、無理しなくてもいいのに」
「っ、ふざけないの! ほら、教科書開きなさい!」
「うひぃ?」
 いつもなら少しは心を乱すからかいも、今の慶子には通用しなかった。割らんばかりの勢いで教科書をテーブルに叩きつけ、その迫力で正座を強制する。
「ほら、キビキビやりなさいっ。一冊終わるまで許しませんからねっ」
「そ、そんな~」
 いかに菊丸が不真面目とはいえ、本気で怒った教師に逆らえるほどの不良ではない。学校一の問題児は躾けられる駄犬のようにテーブルに貼りつけられてしまった。
「あはは、兄ちゃん怒られてら」
「うるさい」

「あたっ」
 その姿を笑う弟に、菊丸はムッとした顔で手を伸ばした。ゴチンと音がなる容赦のなさに、竹丸の目端に涙が浮かぶ。
「菊丸くんっ、弟さんになんてことするのっ」
「だ、だって、こいつが」
「口を動かす暇があったら手を動かしなさいっ。いつまでも終わらないわよっ」
「うひぃ~」
 あげかけた文句もあっさりと怒鳴り散らされ、菊丸はおとなしく教科書と向きあった。慶子の威圧はそれ以上の反抗を許さない。
 そんな女教師に、涙を浮かべていた少年はキラキラとしたまなざしを向けていた。
「先生はすごいなー」

「え?」
「にいちゃんがこんなに大人しく言うこと聞くところなんて初めて見た。お父さんもお母さんも諦めてるんだよ」
「この子は……」
 いつもの出鱈目は学校だけのことではないらしい。平めた目を向けた当人は、あらぬ方を見て下手な口笛を吹いていた。
「今まで来た先生たちもみんな疲れて帰っちゃってたのに、桂木先生はすごいや」
 痛みを忘れた竹丸の表情はにこやかで、子供らしい純粋な視線は憧れに満ちていた。教師として久しぶりに味わう尊敬のまなざしに、少し新鮮なドキドキを覚える。
「そ、そんなことないわ。これぐらい、教育者として当然よ」
「そんなこと言ってぇ。いつもはもっとかわいいのに、いてっ」
「ほら、余計なこと言わないでさっさとやりなさい、さっさと」

「ひぃ~」
 チャチャを入れようとする菊丸にゲンコツを落とし、教科書にまっすぐ向きなおさせる。わずかに目を離すことも許さない。少しでも不真面目な態度を見せようものなら容赦なく頭をつかみ、無理矢理問題を叩きこむ。いちいち感心してくれる竹丸がやる気に拍車をかけてくれた。
 慶子は教師になりたての頃に抱いていた意欲を思いだし、出来の悪い生徒の更正に燃えるがまま、熱い指導を続けていった。
 そんな調子で一時間、慶子もさすがに疲れを覚えた。
「ふぅ」
「先生、平気?」
「ええ、大丈夫よ。ちょっと喉が渇いたけど」
「あ、ぼく、なにか飲み物もってくるよ」
 邪魔にならないように大人しく、しかし輝くまなざしで勉強の様子を見ていた竹丸は、慶子の小さな溜息を聞いて元気よく立ちあがった。役に立ちたいのだろう。嬉々として台所に向かう姿にほほ笑ましさを覚える。

「入ってくるときには気をつけてね。もうこぼしちゃダメよ?」
「えへへ。はーい」
 小さな注意に照れた笑いを返す様は歳相応以上にかわいらしい。少年の純朴な思いに触れていると心が洗われるようだ。あんな子ばかりであるのなら小学校の先生も悪くないかもしれない。高校に赴任してからの自分を顧みてそんなことを考えてしまう。
「ひ~、疲れたぁ。こんなに勉強したの生まれて始めてだよ」
 その最大の要因は、注意のそれたわずかな間でまたサボろうとしていた。疲れたなどといいながら妙に重たげなメガネをかけ、どこからともなくとりだした機械をいじり始める。
「ちょっと休憩しようよ」
「なに言ってるの。まだ半分も終わってないじゃない。もう、ゲームなんかとりだし、て……?」
 慶子は咎めようとして、それがゲーム機ではないことに気がついた。最近流行している小型なものとはほど遠く、大きさはパソコンのキーボードほどもある。ボタンもたくさんついているが、他にも丸みのついた球面やなめらかな板状の部分があった。一見したところ画面のようなものはなく、どう使うのかもわからない。
「なに、それ?」

「でへへ、これはねぇ」
 疑問は楽しげな笑みとボタンの操作、そして、胸に走った刺激によって吹き飛ばされた。
「ひっ?」
 瞬間的な痛みは右胸の先端から。思わず手で押さえたが触れるものはなにもない。不審を覚える暇もなく、二度目、三度目の刺激が襲いかかる。
 それは、乳首をキュっと摘まれるような感覚だった。
「ふ、アんっ」
「ふふふー。ちゃんと動いてるみたいだねー」
「な、なにを」
「こうしてみると~」

「っ……!?」
 女教師の困惑を確かめながら、菊丸は再び手元をいじる。慶子の乳首を襲っていた感覚は、続いて胸全体に広がっていった。乳房の形を確かめるような動きで撫でまわされる。
「な、なに?」
 不可解な刺激を払いのけようと手を動かすが、服の上におかしなものはない。見えない手に触れられているような錯覚に軽い混乱を覚えたが、わずかに痺れるような刺激から、似たようなものを思いだす。そう、マッサージなどで使うことのある低周波治療器にそっくりだ。刺激を送りこんでいるのは膨らみを包みこんでいる下着そのものか。
「な、なに、これ。ブラから、直接?」
「でへへ~。前にいずみちゃんが楽しんでくれたから、ちょっと改良してみたんだー」
「改良って……」
 以前、菊丸はマッサージ器の展示会で、低周波治療器が女性に対して素晴らしい効果を与えることを知った。その経験を活かして女の子を悦ばせるための、そして自分が愉しむための、新たな道具を発想していたのだ。
(「危険な新型マッサージ器発表会!?」参照)

 ことエッチなイタズラに関して、菊丸は不断の努力を絶やすことのない天才である。女性にとっては迷惑なことこの上ない才能であろう。呆れの思いに慶子はわずかばかり冷静をとり戻した。改良の成果とやらの操作機から伸びた細いコードが、自分の腰と背につながっているのを見る。
「こんなもの、いつの間に」
「さっき確認したときにね。おおっと、ダメだよ、外そうとしちゃ~」
「あ、ああっ?」
 気づき取り外そうとした動きも新たな刺激に邪魔されてしまった。硬くなりかけたピンクの蕾を、十数本の指が爪先で甘く掻きしごいてくる。わずかに膨らんだ乳輪を、ほころびかけた乳首の側面を、甘い蜜をしたたらせそうな先端を、芋虫じみた指に弄ばれる感覚。遠慮のない動きは重なりあっても止まることなく、物理的にはありえない刺激が快楽を無理矢理引きだしていく。
「や、いやん! やめ、あ、アあン!」
 もちろん、現実にそんなものが蠢いているわけではない。わかってはいるのだが、与えられるおぞましい刺激に体はどうしても反応してしまう。自らを抱くように腕をまわして確かに覆い隠した乳首は、それでも好きなように嬲られていく。どうしようもない無力感は女としての感度をますます昂ぶらせていった。
「っ、こん、な……」
「へっへー、ブラだけじゃないんだよ?」

「え、あっ? はアん!」
 成す術もないまま、新たに生まれた尻を撫でる刺激に翻弄される。軽く触れる程度だが確かな邪を感じさせる動き。満員電車でさいなまれる痴漢の不快を思いだして反射的に払いのけようとしていたが、そこにあるはずの腕はない。
 見えざる手は慶子の無駄な抵抗を確認すると、柔らかな尻肉を遠慮なく揉みしだきはじめた。波打つような指の動きで弾力を確かめながら、モチをこねるように弄ぶ。
「や、やめなさ、あっ、クぅンっ」
 どれほど腰を揺らしても、床に押しつけ邪魔してみても、姿のない痴漢の動きを妨げることはできなかった。日頃くり返されている菊丸のイタズラによって、慶子の女としての感度は普通の女性の三倍以上に高められてしまっている。遠慮がちな痴漢の稚拙な行為にすら怒りより先に官能を覚えてしまうほどなのだ。さわり放題もみ放題の状況に置かれては、声を抑えることなどできるわけがない。
 それに、この触りかたは――。
「どうですかぁ? ぼくの手のひらの感触が味わえるようになってるはずなんですけど~」
「き、菊丸くんの?」
 まさに今よぎった思いを当人が肯定していた。困惑する女教師に、教え子は嬉しそうに解説を続ける。

「そうですよー。ほら、おっぱいの触りかたとか」
「ひゃう?」
「さきっちょの絶妙なタッチとか」
「あ、ふぁンっ!」
「おしりのマッサージのしかたとかね~」
「っ、や、やめな……あああっ!」
 張りつめた乳房を好き放題に揉みしだかれ、先端に息づくピンクの蕾を優しく執拗にしごきあげられ、子供のイタズラにも感じてしまう尻肉を丹念に丹念に揉みほぐされる。
 それは告げられた言葉通り、自分を淫らに狂わせてしまう悪魔の手の動きそのものだった。
 刺激から逃れようと本能的に身を丸めるが、下着から直に伝わってくる低周波の刺激に対してはまったく意味がない。三人、四人、いや、五人。抵抗の意思をあざ笑いながら自分を弄びくる見えない手は、複数の菊丸に嬲られているような怖ろしい錯覚を覚えさせた。

「クぅぅ、はぁん!」
 快感をこらえようと胸に気を張れば柔尻を遠慮なく撫でまわされ、慌ててそちらに意識を向ければ乳首を執拗にねぶられる。無防備な弱点ばかりを強く弱く責められて、こらえなければならない恥ずかしい声を望まれるがまま響かせてしまう。
「ああっ、い、いやぁ!」
 快楽に耐えようとする慶子の気概すら責めの材料に変えながら、菊丸は巧みに機械を操っていた。
「いやぁ、大変だったんですよ? この精度を表現して自在に操れるようになるのは。でも、これだけ先生に喜んでもらえるならがんばった甲斐がありました」
「こ、こんな、くだらないことばっかり……っ」
「あー、くだらないなんて、ひどいなぁ。それ」
「ああ!?」
 刺激の強弱も菊丸の気分一つ。指一本を横に動かされるだけで乳首を同時に吸いしごかれ、はしたない悲鳴をあげさせられてしまう。そんな自分が情けなくて、弄ばれるのが悔しくて、感じすぎる体が恥ずかしくて、女教師はますますの昂ぶりを覚えてしまう。

「先生のために必死で特訓したんですよー」
「も、もう、やめなさいっ。ああ、や、やめ、てぇ……」
「なに言ってるんですか。せっかく作ったんだから、たあっぷり楽しませてもらいますよー」
「楽しむ、なんて、あなた、先生をなんだと思ってるのっ」
「それはもう、かわいいかわいいモルモットちゃんですよー」
「モ、モルモット?」
 オウム返しに発した言葉に、慶子は自分の状況を重ねていた。逃げることも叶わず、自由を奪われてされるがままの今の身は、確かに実験動物そのものだ。いつもならささやかながらも抵抗することはできる。拒絶の意思で身をよじり、怒りの声で叱りつけることで、多少なりとも抗いガマンすることが可能だった。
 だが、今はそれすらできない。手足は自由に動かせても、下着から与えられる刺激に対しては妨げる方法がなにもないのだ。なまじ手足が動くだけにますますの無力感が募る。どれほど怒っても、どれほど喘いでも、どれほど乱れても、今日の菊丸に対しては逆らうことができない。
 これから、教え子であるはずの年下の少年に、女性を辱めることしか考えていない子供に、その欲を存分に満たすまでひたすら弄ばれ続けるのだ。

 逃れようのない確かな予感に、戦慄と恐怖が背を駆け抜けた。それよりも、はるかに大きな期待と共に――。
「イ、イヤ、イヤよ。わたしは、あなたのオモチャじゃないのよ?」
「ぐふふ、心配はいりません。先生の体、もっともっとイヤらしく、もっともっと恥ずかしく、もっともっとキモチよ~く改造してあげますからね~♪」
「じょ、冗談じゃないわっ。そんなの、ひぃっ?」
 拒否しようと発した言葉すら、尻に舌を這わされる感覚に消し飛ばされてしまう。怪しげに笑う菊丸には、もはや一言の抵抗すら許す気がないようだった。
「ふっふっふ。今日はいっぱいイジめられた怨みもあるし」
「そ、そんなの、あなたが悪いんじゃ……」
「でへへー、じいっくり、たあっぷり、ねぇぇぇっぷり、キモチよくしてあげますからねー」
「あ、ああ……」

 宣言は軽く陽気な響きとは裏腹に、絶対の未来を確定する重さで慶子の心を捉えていた。確かに訪れる恥辱の末路を、女教師は必死に否定する。
「ダメ、ダメよっ。そんなの、イヤ――」
「どうしたの?」
 淫虐の実験が始められようとした正にその瞬間、横手から疑問の声が割りこんできた。ただれた欲にまみれた空気をきれいに拭いさる清らかな幼い声は、飲み物を手に戻ってきた竹丸のもの。
 小首を傾げた不思議そうな表情に、慶子は胸と尻を押さえていた姿勢を慌てて正した。こんな純真な子の前ではしたない姿はさらせないと、反射的にすべての快感を一瞬だけ忘れる。
 竹丸が掛けている大きめのメガネに、疑問を抱く余裕など欠片もなかった。
「な、なんでもないわ。ちょっと、菊丸くんがわからないところを教えていただけよ」
「そうだとも。いやぁ、先生の教え方はわかりやすいなぁ」
「っ!?」

 そんな女教師の心中など気にもせず、あるいはわかっていながら、菊丸は変わることのない刺激を送りつけていた。竹丸に気づかれないためにか、テーブルの下に隠した装置を器用にも足で操作して、先ほどまでよりも柔らかな責めをそそぎこんでくる。
 尻を軽く撫でられ、胸を優しく触られ、乳首をチロチロと舐め遊ばれる。全身を無数の蟲に這われているようなおぞましい快感に、慶子は声を殺してただ耐えることしかできない。
「あ、ン……」
「先生? どうしたの?」
「だ、だいじょうぶよ……ぁぁっ……なんでも、ないわ……っ」
 心配げな竹丸に、官能の火に炙られながらも健気な笑みで応える。上気した肌はうっすらと汗が滲んでおり、頬はアルコールを含んだように赤い。救いを求める潤んだ瞳は、強い保護欲と同時にサディスティックな感情を掻きたてさせるものだった。
 この女は辱めれば辱めるだけ悦びに喘ぐ。言葉の端々から漏れ聞こえる隠しきれない官能の響きは、見るもの聞くものすべてにそんな確信を抱かせる。
 女性を弄ぶ天才は、当然その淫靡に気づいていた。
「ほら、先生。勉強の続きしましょうよ。ここはどうですか?」

「ひぅ!?」
 懸命に快楽をこらえる女教師の努力を嘲笑うように、教え子は個人指導の再開をうながしてきた。テーブルの上では今まで通りに数学の勉強を続けながら、下では自らの絶対的な優位を存分に振るっていく。
 慶子の豊満な双乳は強く乱暴に鷲掴みにされた後、一転して優しく揉みほぐされた。強くは短く、柔らかくはゆっくりと、見る間に張りつめていく乳房からなにかを搾りだそうとでもいうように、低周波の愛撫は止め処なく快楽を注ぎこんでくる。
 女教師の火照った体は淫欲を一滴もこぼさないように、ただ必死に受け止めることしかできなかった。
「ぅ、くぅんっ。や、め……」
「こっちはどうかなぁ? 自信あるんですよ~」
「っ! ぁ、ぁぁぁ……っ」
 乳房を弄んでいた力がゆるんだと思う間もなく、続けて乳首を摘みあげられた。双乳への刺激と同じようにキュッと強く捻った後、ゴメンね、と謝るように優しく優しく撫で転がされる。摘まれるタイミングはランダムで刺激を覚悟する余裕もない。いつ訪れるともしれぬ快楽の電流を待ち焦がれ、いざ迸った衝撃に蓄積した快感を燃やされるばかり。
「やめ、なさい。ぁぁ、やめ、てぇ……な、なんで、こんな、の……」

 抵抗する意思すら弄ぶような手つき、呼吸まで読みきった絶妙のタイミングでこちらの官能を無理矢理高める技術。わずかな痺れを伴った、自分を嬲りなれた感覚は、まるで――。
「どうです? ぼくにされてるみたいでキモチいいでしょ?」
「!?」
 まさに囁きの通りだった。心を見透かされた動揺で反射的に姿勢を正し、強い羞恥を覚えながら懸命に菊丸を睨みつける。
「な、なにを?」
「いやぁ。先生に喜んでもらおうと思って一生懸命練習、いや、勉強したんですよ。微妙な感触、じゃなくて問題を解けるようになるまで苦労しました~」
「ああっ!?」
 努力のほどを誇るように与えられた次の刺激は、とろけきった美尻へのものだった。弾力を楽しむように軽いタッチがくり返されたかと思えば、頬を擦りつけられるような強い圧迫感に襲われる。
「い、やぁぁ……」

 あまりにおぞましい刺激に思わず目を閉じていた。痴漢から逃れるように腰と尻をよじらせ、正座している足を懸命に動かして払いのけようと試みる。
 だが、刺激は下着そのものから与えられているため、外側でなにをしようと意味がない。慶子の努力を嘲うように、低周波の手はますます好き勝手に熟れきった桃尻を撫でまわす。
 つまみ、揉み、こねあげ、頬ずり、舐めあげ頬ばり甘噛みほぐす。美尻を食べつくすような蹂躙は唾液のぬめりまで再現していて、獲物にますますの嫌悪とみじめさと、それ以上の快感を与えていった。
 一つ、二つ、三つ、四つ。重なることのない無数の手に嬲られていながら、ほんのわずかな抵抗もできない。無力感は屈辱の思いと性感をどうしようもなく高めていった。貪られていく自尊心は重く鈍い快楽に変わりゆき、慶子の女の本能を無理矢理ひきずりだそうとする。
 いまや、陵辱者は外からの刺激だけではなくなっていた。
「ぁぁ、ぁぁっ。もうっ、もう、やめ、てぇ……」
「でへへ。すごいでしょ? 褒めて褒めて」
「あ、あんたって子は……」
 それでも、楽しげな教え子のにやけた顔を見ると、負けてなるものかと誇りを取り直してしまう。それがますます菊丸を喜ばせ、自分を追いつめるだけだとわかってはいても、怒りの言葉を止めることはできない。

 だが、そんな唯一の抵抗の機会も、もう一人の存在を意識した途端に引かざるをえなかった。
「兄ちゃん、勉強してたの?」
「してたとも。ぼくは人知れず努力するタイプなんだよ。ね、先生?」
「あ……」
 そう、ここには自分と菊丸だけではなく、まだ幼い竹丸がいるのだ。自分を慕い尊敬してくれる、まっすぐな心を持った清らかな少年が。
 彼の前では素晴らしい教師でいたい。教え子にイタズラされ、望まないままに悦ばさせられているなどと知られたくない。心に生まれた葛藤は、慶子に強い戒めの言葉を飲みこませていた。
「さあ、勉強勉強」
「こ、こんなことにばっかり一生懸命になって。少しは真面目に勉強なさ――」
「このへんはどうなるんですか~?」

「ぃひっ?」
 せめてと小声で注意をしても軽く払いのけられてしまう。桃尻の柔らかさを堪能しつくした低周波の指は、健気に引き締められた谷間をなんの苦もなく突き進み、その最奥で息を潜めている禁断のすぼまりへと迫ってきた。どれほど心を許した相手だろうと決して触れられたくない不浄の場所だ。そんなところを面白半分に弄ばれる感覚に、弱音が声となって現れてしまう。
「や、やめ、てぇ……」
「計算上はきちんと出来てるらしいんですけど、やっぱり先生に聞いてみないとわからないし。どうです? ちゃんとできてますかぁ?」
「っふぁぁ!!」
 菊丸の指は教科書の問題を示していたが、問いかけがなにに対してのものかは明らかだった。ワサワサと尻を割り開いた低周波の指たちの一本が、恥ずかしいすぼまりを撫でるようにかすめたからだ。
 小刻みな震えを帯びた形のない指は、女教師が喘ぎを噛み殺すのを確かめてから、獲物を嬲るようにすぼまりの周囲を蠢きだした。刻まれた皺の一つ一つを確かめるような感覚が、女の最奥で燃えている鈍い熱を少しずつ滾らせていく。
「……ぁぅ……クぅぅ……ふぁァ!」
 24歳の女教師は霞む視界を硬く閉ざし、美貌をしかめて陵辱に耐えた。その表情があまりにイヤらしいものであると自覚はしていたが、他にできることなどなにもない。

「こ、こんな、こんなの……」
「先生、答えてくださいよぅ。わかりにくいなら、でへ、もっといっぱい解きましょうか?」
「だ、だめっ」
「じゃあ教えてくださいよ。ちゃーんと正確に、ね」
 強い拒否を示しながらも、向けられたニヤけきった笑みを見て、他に道がないのだとどうしようもなく理解してしう。この恥ずかしい感想を正直に答えなければ、菊丸は躊躇なく忌まわしい指をさらに進めてくるだろう。
 そんなことをされたら、もう耐えられない。
「っ……わ、わかったわ」
 悔しかった。こんな下劣な男に、それも年下の教え子に女の尊厳を踏みにじられて、それでもなにもできず従うしかないことが。
 恥ずかしかった。そんな悔しさを募らせて歯を噛み涙をこらえるほどに、ますます昂ぶっていく自分の体が。

 選ばなければならない。こんな子に屈服してはいけないと唱える理想の答えか、これ以上の辱めを受けないためにはしかたないと諦める弱い意見のいずれかを。
 いや、葛藤はわずかな思考の間に、解を一つ増やしていた。ここで強く拒否すればもっと虐めてもらえるなどと言いだす、最も深い場所からの囁きだ。
 最後の本音を否定するため、慶子は二つ目の弱さを選択していた。わずかに収まった刺激の中、震える息で深く呼吸し、覚悟して恥をさらけだす。
「……ちゃんと、でき、てるわ」
「えー? なにー?」
「っ、だからっ……私の……」
 ニヤつきながら聞き返してくる教え子に苛立ちと羞恥を掻きたてられる。勢いで口にするつもりだった告白のあまりの卑猥さが、一度言葉を止めたことによってはっきりと自覚できてしまった。血が煮えそうなほどの恥ずかしさに耳まで赤くなるのがわかる。
 それでも、言わないわけにはいかなかった。たっぷりと逡巡し、諦めと後悔をないまぜにしたまま、菊丸の努力の成果を正直に正確に評価する。
「…………私の、は、恥ずかしいところに、届い、てるわ。――――ぁぁぁ……」

 ようやく答えを告げた途端、ほどけた緊張に代わり湯を浴びるような解放感に包まれた。それが胎の奥底でくすぶっている熱と同じものだと、今はまだ気づかない。
「ふーん。ちゃんと?」
「ちゃ、ちゃんと……」
「しっかり?」
「……しっかり」
「キモチいい?」
「キモチい……な、なに言わせるのよっ」
 ぬるま湯に浸った気分のまま晒しかけたさらなる恥を、寸でのところで否定する。もっとも、言葉にせずとも菊丸にはすべて知られているのだろう。ニヤけた笑みはニヤけたまま、さらなる陵辱を企て進めてくる。
「そっかー。いやー、嬉しいなぁ。先生に喜んでもらえて」

「だ、誰が喜んでるのよ」
「えー? ぼくが一生懸命勉強してたの、喜んでくれないんですかー? なあ、竹丸」
「え? あ……」
 菊丸の呼んだ名を聞いて、もう一人の存在を思いだす。血の気の引く音を聞きながら見た竹丸は、不思議そうな顔で小さく首を傾げていた。
「先生。本当にだいじょうぶ?」
 問いかけは純粋な心配からで、不審の理由にまでは思い至っていないようだった。ほっと息をなでおろしてから慌ててとりつくろう。竹丸のまっすぐなまなざしは、まだ優秀な先生を見ていたときと同じものだ。この子にだけは事実を知られたくない。
「だ、だいじょうぶよ。ちょっと、菊丸くんがしっかり勉強してたから、びっくりしちゃっただけ」
「そうなの?」
「そうよ。本当に、菊丸くんてば、いつも先生を困らせて、つまらない、くだらないことにばっかり熱中して、女の子たちにちょっかいかけまくって」

「いやぁ、そんなに褒められると照れるなぁ」
「褒めてませ――!?」
 怒りを募らせることで淫らな感情を遠ざけようとしたのだが、あまりにも儚い抵抗だった。見えない唇で両の乳首に同時に吸いつかれ、思わず身を引いてしまう。
「先生?」
「だ、だいじょうぶよ? なんでも、ないわっ」
 反射的に上げかけた喘ぎは辛うじて抑えこんだが、自分を抱くように腕をまわすのは止めることができなかった。少しでも気を紛らわせるための行為だったが、平静を装うためにはそんな抵抗すらも許されない。あくまで「いつもの女教師」としてふるまうため、慶子は腕をテーブルの上に戻し、にこやかな笑みを竹丸に向けた。
「でも、顔も赤いし息も荒いし。病気じゃないよね?」
「へ、平気よ。ちょっと、お風呂でのぼせちゃったみた、ぃ――っ」
 毅然とした態度を示すためまっすぐに背を伸ばす。不安げな少年を諭す慶子の姿は、少し離れた場所から見れば普通の優しい女教師に映っただろう。

 だが、事実はそうではない。平静を装う顔は酒に酔ったのかと見紛うほどに赤く、吐きだす息は熱く甘い。
 なぜなら、誇るように突き出したその胸は、見えない四人の菊丸に貪られているからだ。
「のぼせたって、お風呂いったの一時間も前だよ?」
「そ、そうだった、ハンっ、かしら……じゃ、じゃあ、ンンっ、か、体が、冷えたのかも」
 一人は後ろから抱きついて二つの膨らみを支えるように揉みしだき、一人は前から無遠慮にこね回していた。強く荒々しい手が女の象徴を虐めるのと同時に、繊細な指先が張りつめた肌を優しくいたわる。揉まれるほどに湧きあがってくる快感は、一滴もこぼれることなく体に注ぎこまれていった。もはや許容量をこえている熱い滾りは、出口を求めてイヤらしい突起に集中していく。
 その美乳の頂点を、さらに一人ずつの菊丸が嬲っていた。
「寒いの? じゃあ上着でも持ってこようか?」
「そ、そう、ねっ……! ぁ、ぅぁぁっ……! もう一枚、なにか、貸してもらえるかしらあアア!」
 一人は右の乳首を丹念に、入念に、これでもかといたぶり尽くしていた。太く丸い五本の指をぷっくりと膨らんだ乳輪で蠢めかせ、硬く屹立した乳首を優しく、時に激しくしごきまくり、なにかが溢れだしてきそうな先端を爪先で強く甘く掻き嬲り、燃えあがる快感を限界以上に高めていく。

「先生? 本当にだいじょうぶ? なんだか苦しそうだよ?」
「へ、平気よ。平気なの。だから……ッ! アっ、うあアっ!」
 一足先に強制勃起させられた左の乳首は、涎をしたたらせた口の中に送られていた。乳房の半ばが頬張られ、熱いぬめりで食みほぐされる。乳首を吸いしごく口の動きは幼子が乳を求めるような生易しいものではない。例えるならば飢えた獣だ。じっくりと熟成され快楽にとろけきった柔肉を、むさぼるように食み犯す。ナメクジじみた熱い舌は、女教師の清らかな膨らみを思うがままに舐めまわしていた。
「先生? ねぇ、先生ってばっ」
「あ、ああ……そう、よ。私は、先生なの……」
 乳房全体に広がる密着感と圧迫感。モノを頬ばった顎の動きから口の内肉がもつ人の温もり、そして唾液の潤滑まで、おぞましいほどリアルに再現された感覚は、女の象徴を弄ばれているという事実を心の奥底にまで刻みこんでくる。それも、相手は対等な立場の男性ではなく、七つも年下の教え子なのだ。本来なら指導する立場であり、絶対的に上である教師の自分が、女性をおもちゃにするような生徒に嬲られている。膨らんだ乳輪を舐めまわされ、硬くなった乳首を甘噛みされ、舌先で遊ぶようにはじきしごかれ、自分のもののように扱われて悦んでいる……!
「わかってるよ? どうしたの、先生?」
「あ、あああ……先生で、いたいの。先生で、いなきゃいけないのっ。だから、だから……っ!」
 どこかに堕ちてしまいそうな快楽の奔流に弄ばれながら、慶子は心の中で必死に言い訳を叫んでいた。

 しかたがない。しかたがないのだ。今菊丸を叱りつけたらイタズラされていることを竹丸に知られてしまう。尊敬を向けてくれる純粋なまなざしが、イヤらしい女を見る蔑みの目に変わってしまう。こんな小さな子の前ですら教師でいられなくなってしまう。それだけは……。
 自分の尊厳と夢のため、慶子は女の官能を生贄に捧げた。敏感すぎる体を、官能に昂ぶる女性の象徴を、晒してはいけない痴態のすべてを、年下の教え子に委ね渡した。竹丸の目の前で二つの美乳を嬲られ、弄ばれ、恥辱を必死にこらえたまま、それでも教師であり続けた。倒錯した状況に覚えるますますの滾りを心の中で正当化し、襲いかかる快楽を余すことなく享受する。
「本当にだいじょうぶ?」
「だ、だいじょうぶよっ。だいじょうぶ、らからぁ、アっ、うあああっ!」
 だが、覚悟しても感覚が消えるわけではない。竹丸の言葉に応え、優しく笑みを返しながらも、本当は菊丸に嬲られている。純粋な少年を前にして必死で平静を装ってはいても、実際は快楽を貪っているのだ。
 出口のない官能に女としての性熱を高められ続けている。竹丸のまっすぐな目を見るたびに、そんな自分の浅ましさを思い知らされ、なぜか快楽が膨らんでいく。必死に否定をしてみても体は無情なまでに正直で、シコりきった先端をさらに硬く勃たせていくのだ。
「ああ、はぁ、ふあぁぁぁ……ハぁ……ふぁ……」
「せ、先生?」
「あ、ぁん……ゴ、ゴメンね。ヘンな声、出しちゃって……。でも、本当に大丈夫だから……」

 慶子の望まぬ思いとは逆に、胸を弄んでいた菊丸たちは少し勢いをなくしていた。乳房をこねていた激しさはなりを潜め、今は撫でるだけになっている。乳輪で蠢く五本の指も、乳首を甘噛む口も舌も、優しく単調な動きに落ち着いていた。敏感すぎる24歳の美乳にとってはそれでも快楽を注ぎ続けるものだったが、今までに比べれは遥かにマシだ。わずかに安堵の息を吐き、今までの痴態をつくろうように竹丸へと優しくほほ笑みかける。
「だから、心配しなくてもいいの、ひっ!?」
 そんなささやかな自尊心すら、陵辱者たる教え子は認めてくれない。胸に集中させていた抵抗の意識の裏をかくように、尻を撫でまわす手が動きを再開してきた。慶子は思わず恥ずかしいすぼまりに力をこめてしまう。
 だが、新たな攻撃はとろけきった柔肉へのものではなかった。
「え?」
 低周波の刺激は火照った肌のなめらかさを堪能するように前後左右へと蠢きながら、ゆっくり腰周りへと移動していた。マッサージのような優しさはさらに前、太ももを撫で揉み進んでいく。ゆるやかだが確かな動きは一向に止まる様子がない。
 その行きつく先は――。
「ま、まさか……」
 肌の粟立ちを自覚しながら菊丸を見る。中年男の粘質さを思わせるニヤけきった笑みは、慶子の予感が正しいものだと肯定していた。

 今から、女の中心を責められるのだ。
 慶子の心を強い恐怖と絶望が襲った。裏腹に、胎の奥底が激しく疼く。胸を揉みしだかれて生みだされた快楽が、乳首を虐め抜かれて圧縮された快楽が、尻を舐めまわされて無理矢理ひきだされた快楽のすべてが、女のもっとも大切な、決して侵されてはいけない神聖な場所で燃えている。今まで必死にこらえてきた、ガマンにガマンを重ねてきた淫らな欲望が、解放の時を待ち焦がれているのだ。そんなところを、この陵辱者に犯されたら――!
 耐えがたいほどに甘美な予感と、自尊心が粉々に砕けてしまうあまりに確かな危機感から、慶子は震える太ももにあらん限りの力をこめた。ここを責められたら、自分は女として最後の恥を晒してしまう。男の欲望を満たすだけの玩具に堕とされてしまう。それだけは、それだけは絶対にダメだ。なんとしてもこの場所だけは守らなければ!
 だが、そんな強い悲愴な覚悟も、低周波の陵辱者にとってはなんの妨げにもなりはしない。緊張にこわばる足の付け根を「ごくろうさま♪」と労うように、優しく無遠慮に撫であげ進むばかり。
「アあんっ!」
 どうしようもなく、はしたない喘ぎを漏らしていた。すべての力をもってしてもなんの抵抗にもならない事実が、恐怖と絶望と官能をさらに深める。もう、この陵辱者の成すがまま、淫らな自分を貪られるしかないのだ。
 諦めの思いは、自分を辱めている張本人に甘えすがるような弱音を吐きだしていた。
「あ……ああ……き、菊丸くぅん……」
「はい? なんですかぁ、桂木セ・ン・セ・イ♪」

 だが、返された心底楽しげな笑みに、わざわざ強調された自らの職名に、なけなしの誇りが蘇る。そう、自分は教師なのだ。こんな、教え子から受ける面白半分の辱めに、自分を性の実験玩具としてしか見ていないような男に負けるわけにはいかないっ。
「っ……あんたなんかに、負けないわっ」
「うわぁ、こわーい♪」
 その抵抗がますます相手を悦ばせ、ますます自分を追いこんでいるのだとわかっていても、奮起しないわけにはいかなかった。痴漢にすら感じてしまうほど敏感に調教された体を限界以上の淫欲に満たされ、それ以上の快楽を絶え間なくつめこまれ続けながらも、24歳の女教師は女教師であり続けるため、さらに恥を高めていく。
「じゃ、こんなことしても平気だよねー」
「あ、ンハあっ!?」
 どこまでも軽い言葉、楽しげな指先の動きと共に、ついに慶子の「女」に対する悪魔の責めが始まった。しとどに蜜をしたたらせる秘裂に獣欲の顎が食らいつく。硬く閉じた太腿も、思わず秘所を押さえてしまった手も、低周波の菊丸に対しては意味がない。抵抗を楽しむ嘲笑はそのまま口の動きとなって、秘肉を優しく食みほぐしていく。
「あああ、ハあああぅあン!」
「ぐふふ。先生、声ガマンしなくていいの~? イヤらしすぎるよぅ?」

「だって、だってっ。こんな、こんなの……!」
 堪えきれない喘ぎ声を、それでも懸命に飲みこみ噛み殺す。自分で慰めているときであればすでに果ててしまっているであろう快感に、目をつむり歯を食いしばり背を仰け反らせることで辛うじて耐えた。上を向いたことで張りつめた白い喉を震わせ、頬や耳はおろか首元まで真っ赤に染め、硬く閉ざした目の端に屈辱の涙を浮かべながら、爆発しようとする快感をひたすら身の内に止め続ける。
 下半身へと加えられている責めは決して激しいものではなかった。ただ、熱く濡れたナメクジじみた太い舌が、熟れきった女の秘裂を舐め進んでいるだけ。小刻みに震える欲肉が、ゆっくりと、たっぷりと、ねっぷりと時間をかけて秘肉を味わい、ヒダに唾液を沁みこませながらジワジワと上りきているだけだ。
 少しでも気をゆるめればすぐに達してしまいそうな刺激だが、限界を越えたガマンによってなんとか堪えることができた。ゆるやかな責めであるからこそ辛うじて耐えていられるのだが、それは慶子にとって死刑執行のカウントダウンと同じだった。意識を弾けさせるほどの快感で焦らされ続け、いずれは最後の核に辿りつくのは明らかなのだから。
 女の最も敏感な肉の蕾は、すでに柔らかな鞘を自らこじあけ、乳首にも負けないほど強く硬く勃起していた。迫りくる舌肉の蹂躙を恐れて、あるいは待ち焦がれて震えている。充血しきった快楽の中心は一舐めされただけで爆発してしまうだろう。いや、この極上の獲物を前にして、菊丸がそれだけで満足するはずがない。乳首に加えられたのと同じような、あるいはそれ以上に容赦のない責めが、硬く震える女の核に行われるはずだ――。
(ダメ、ダメッ、ダメぇ! そんなの、そんなの絶対に耐えきれない!)
 ゆるやかに加えられ続ける限界を超えた快楽の責苦、想像してしまったそれ以上の悦楽への予感と確信に思考が霞む。アルコールの霧に包まれたまま体中を舐めまわされている錯覚に犯され、わけもわからず許しを求めてしまう。
「きくまる、くん、きくまるくぅぅん……お、おねがい、もう、もうゆるし――」
「先生っ、どうしたの? やっぱり、具合悪いの?」

「え……? あ、た、たけまる、くん……?」
 そんな限界を超えてしまった状況でも、慶子はまだ教師であった。心配そうな少年の声に、淫欲に熔けた女の本能を、わずかに残った自尊心で懸命に隠そうとする。
「だい、じょうぶ、よ、ぅんン! 先生、だいじょうぶ、だかあああ!」
 だが、作ろうとした笑みはすぐさま淫らに溶けてしまい、平静を装う声も押し殺しきれない喘ぎに変わってしまった。それでも、果てる直前の女の顔に懸命の笑みを浮かべ、慶子は教育者であろうとする。
 その様は、淫欲の火で燃えている熟れきった24歳の肉体を、ビリビリに破り裂かれたスーツの残骸で懸命に隠そうとしているようで、健気で哀れで美しく、そして圧倒的な被虐的官能を備えていた。
 男であれば誰しもが獣欲を掻きたてられるであろう女教師の痴態を前にして、竹丸はただただ心配する。
「本当に? 本当に大丈夫なの? なんだか先生、とってもエッチだよ?」
「そんなっ、そんなこと、ないっ! あふぅぅ……! 先生は、先生なのよっ。そんな、エッチなわけ、ないじゃ、なあああああアァン!」
 それが、慶子を教師の立場にすがらせ続けていた。

(ダメ、ダメよっ。この子に、こんな、イヤらしい姿を見せるなんてっ。私は教育者なのよ。憧れの目で見てくれてる、純真な子の前で、こんな、浅ましい顔を見せたりしちゃ、絶対にダメっ! ……でも、ああっ、でもぉ!)
 どれほどに心の中で叫び、新たに決意を固めても、生まれる思いはその端から官能の熱に燃やされてしまう。教師であることを強く意識し、自尊心を保とうとがんばるほど、その想いが快感をさらにさらに高めていく。懸命に理性の壁を保とうとしているのに、崩壊をうながす快楽の波を、自らの手で強くしてしまう。
 そんな矛盾した状況が、慶子をますますの高みに追いつめていった。いよいよ秘核に触れようとしている低周波の舌を意識して、絶望的な事実を認めざるをえなくなる。
(――もう、耐えきれない――)
 嬲られ続けた体は快感で染まりきってしまい、もう自然に収めることはできない。今すぐ解放されすべての刺激から逃れたとしても、一分とたたず果ててしまうだろう。なにしろ相手は菊丸なのだ。許してもらえる可能性など期待してもありえない。もう、女の恥をさらさずにこの家を出ることはできないだろう。
 なら、せめて――。
「た、たけまるくん、たけまるくぅぅん!」
「え?」
 唐突に名を呼ばれ、竹丸はわずかに動揺していた。少し兄の様子をうかがってから、頷きに応えて言葉を返す。

「な、なに?」
「アふ……あ、あのね、先生、喉が、喉が渇いてるの。だっ、だからっ、アン! ちょ、ちょっと、ヘンな声が、ぁぅ、ぅぅぅっ、で、でちゃうのっ」
 だがそんな些細など、切羽詰った慶子にとってはどうでもいいことだった。普通に考えればありえない理由を、明らかな喘ぎ混じりの声で告げる。
「だ、だからっ、なにか、ぁくぅ……飲むもの、も、持ってきて、もらえる? ア、ンンン!」
 すべては竹丸をこの場から遠ざけたい一心だった。もはや限界を悟った女教師の自尊心が、この子の前でだけは果てたくないと強く願う。
「あ、じゃあこれ、まだペットボトルに残ってるから注ぐね」
「そ、そうじゃなくてっ、くフうううン!」
 しかし、遠回しにすぎる言葉では正しい意図は伝わらなかった。竹丸は元からの優しさと機転のまま、場に残っていた飲み物を用意しようとするばかり。
「違うの?」

「う、うん。それじゃ、なくて、もっと、あ、アくぅぅぅ……もっと、つよくぅぅぅ……」
「つよく?」
「あ……ち、ちがうの、それ、はあああ!?」
 火照りきった心と体が発する言葉に欲求を割りこませてくる。弱められていた陵辱の手たちは女教師の本音に応え、わずかに勢いをとり戻した。乳房がゆるやかに搾りあげられ、乳首を舌先がゆっくりと舐め転がし、尻の割れ目を無数の指たちが時間をかけて開いていく。
「あっ、あっ、あああっ! ダメ、ダメぇ、そんな、そんなに、焦らさ――」
「じらす?」
「ち、ちがうのっ。そうじゃ、なくてぇ、ふ、ぁっ? あっクぅぅぅぅぅぅ……!」
 もはや考えることもできない。このままでは竹丸にすら最後の恥を晒してしまう。
 襲いくる絶望と快感をやんわりと遮ったのは、焦燥を加えている張本人だった。

「もっと刺激の強い方が好きなんだよね、先生は」
「き、きくまる、くん……あ、あなたって、子は、っっぅっぅっつ!」
 叱責の言葉は許されず、すべて嬌声に変えられてしまった。全身をまさぐる陵辱の刺激を一瞬強められるだけで、反抗の意思は犯し消されてしまう。
「そうなの?」
「そうだとも。先生はあっつーいお茶もガマンしてガマンして飲むのが好きだし、炭酸みたいな刺激は強ければ強いほど悦ぶんだぞ」
「へー。兄ちゃんは先生のことよく知ってるんだね」
「もちろん。先生のことなら親御さんはおろか、愛しあった恋人よりもよーっく知ってるとも。でへへ、もうぼくが恋人といっても過言じゃないぐらいさ」
「ふ、ふざけな、あああっっっ!?」
 とんでもない言い分を肯定させようとでもいうのか、強い刺激が断続的に襲いかかってきた。どこかに意識を集中させてせめてもの抵抗を試みようとしても、低周波の指と舌は必ずその裏をついてくる。全身をくまなく舐め尽されるような感覚は、いつしか刺激される場所すべてを性感の弱点に変えていた。もう空気が触れているだけで感じてしまう。体を包んでいる菊丸の服が、どうしようもなくキモチいい。下着だけではなく服そのものに犯されているようだった。

 熱い汗に濡れたジャージから立ち昇る古い匂いは嗅ぎ覚えのある陵辱者のもの。キュっと丸めた足指の先から、喘ぎ疲れた口の中まで、体中を十数人の菊丸に揉まれ触られ舐められ味わわれ尽くされている――。
「そうなの、先生?」
「ち、ちが、うああっ?」
 女の中心を舐め上っていた太い舌は、ついに包皮へと辿りついた。淫らな核を守る鞘も女性器の一部であることには変わりない。低周波の舌はその柔襞も差別せず、丹念で入念で執拗な嬲りを加えていった。
「ふあああああああン!!」
 指先で引き伸ばし、爪先で軽く掻き、唇で甘く噛み、熱い舌で舐め溶かす。周囲を激しく震わせて繊細な陵辱を加えているにも関わらず、肝心の淫らな核にだけはわずかな刺激も届いてこない。女の中心はさらに血を集め、はやく嬲ってと勃ち震えていた。
 桃色に霞んだ慶子の思考も同じ思いに満たされてしまう。
(も、もう、ダメぇ……)
「先生? ねえねえ、先生ってば~」

「た、たけまるくん……」
 自分を呼ぶ竹丸の声がからかいを含んでいることも、もう慶子にはわからない。ただ浅ましい雌の顔をさらし、必死の懇願を伝えるばかり。
「おね、がい。おねがいよ……もう、ゆるして……」
「な、なにを?」
 息と唾を飲む小学生に、心からの欲望を告げる。
「ほしい……ほしいの……もっと、すごいの、ちょうだい……」
 目を潤ませ、頬を朱に染め、瑞々しい唇を震わせてのおねだりは、男の獣欲を爆発させるには十分すぎる淫乱さを秘めていた。
 それは小学生である竹丸にすら生唾を飲みくださせるほどで、完全に蕩けきった慶子の姿に菊丸は「ぐしし」と含み笑う。
「ほら、竹丸。先生飲み物ほしいんだってさ。コーラでも持ってきてあげろよ」

「で、でも兄ちゃん。もうちょっと……」
「後で全部楽しませてやるから、な」
 かけたメガネを指先で小さく叩きながら、未練がましくごねる弟に退室を促した。少しだけ唇を尖らせながらも、竹丸は素直に応じて動く。
「わかった。もってくるよ。先生、待っててね」
「は、はや、くぅぅぅ……」
 女教師の様子をじっと見ながら、竹丸はゆっくりと後ずさっていった。遅々とした歩みは慶子の焦燥を少しでも長引かせようとするかのよう。
(はやく、はやく行って! 竹丸くんっ、おねがいだから、いってぇぇ!)
 包皮を激しく嬲られたまま、慶子は心の中で絶叫していた。他に耐えるための術がなかったからだ。淫らな言葉を頭に響かせ、その想いにすがることでしか、押しよせる快感の高みから意識をそらすことができない。
 怖ろしく長い時間をかけて、竹丸は居間から姿を消した。

「ああ……」
 行った。ようやくいってくれた。自分を教師として縛り続けていた少年が、自分の淫欲を抑えつけていた枷が、ついについに消えてくれた。これで――。
「これで心置きなく素直になれますよね~」
「!?」
 心を見透かしたような声は真なる陵辱者のもの。耳元で囁かれた自分の本音に、菊丸と二人きりなのだと思いだす。
 同時に、彼が自分の教え子であることも。
 外れたはずの枷はまだ残っていた。たとえ竹丸から離れても、自分はどこまでも教師なのだ。教え子に嬲られている現実はなにも変わっていない。
「わ、わけのわからないことを言わな――?」
 一度は諦めた感情が改めて強い羞恥となる。陵辱者に向き直ったとき、それは驚きと恐怖によってさらに煽られる。

 自分を見ている第三の目、無機質なレンズが輝いていた。
「な、なによ、それっ?」
「なにって、ビデオカメラじゃないですか。知らないんですか?」
 どこから取りだしたのか、菊丸はハンディカメラを構えていた。携帯用よりもやや大きく、確かに撮られているのだと意識させる威圧感がある。その向こうに多くのまなざしを感じさせる重さだ。
 見知らぬ男たちに痴態を見られているような錯覚は、慶子の背に先ほどまでとは比べものにならない羞恥と、その倍にも達する甘美な衝撃を走らせた。
「な、なにを、する気、なの……?」
「でっへっへ。先生の一番かわいいところ、記念に残しておいてあげようと思ってさ」
「な……?」
「これならずっと保管しておけるし、好きなときに楽しめるしね~」

「そ、そんな……」
 冗談ではない。恥など掻いたら捨てるもの。自分で慰めたことですら忌まわしく、一秒でも早く忘れたいのだ。克明に覚えているであろう菊丸と顔を合わせるだけでも恥ずかしさが蘇る。
 それを記録に残されたりしたら、永遠に忘れられなくなってしまう。時とともに色あせるはずの記憶まで、いつまでも嬲られ続けてしまう。今だけではなく過去までも、男の欲望の道具に堕とされてしまう。そして、きっとこれからも――。
「イヤ、イヤあああ! ダメっ、撮らないで! こんな、こんな恥ずかしい姿を撮られたりしたら――」
「うぷぷ。もっとキモチよくなっちゃう?」
「な……」
 あまりに的確な言葉に一瞬息が止まる。
「先生、恥ずかしいの大好きだもんねー」
「ち、ちがう、ちがうわっ。そんな、そんなワケ――」

 否定の言葉は体が許してくれなかった。
「違う」と叫ぶたびに官能が燃え上がり、「嘘つけ」と言わんばかりに感覚を研ぎ澄まされてしまう。爪先ほどにまで迫っていた限界を髪一本分にまで近づけながら、それでもさらに焦らされてしまう。
「ああっ、ふああっ! う、うそ、うそよっ! こんな、こんなの、ぜったいダメぇ!」
「ほーら。カメラの向こうからたくさんの人たちが先生を見てるよ~。クラスの連中とか先生たちとか、電車の中のおじさんたちとか想像するともっと興奮しちゃう?」
「イヤ、イヤあ! みないでっ! おねがいっ、みないでぇぇ! あ、うあああ! も、もう、もうダメなの! おねがいだからみないで!」
 達する直前のイヤらしい姿を、快楽を求める浅ましい顔を、愛する人にしか見せてはいけない恥ずかしすぎる表情を、焦らされるがまま晒し続ける。晒し続けてしまう。いっそ果ててしまえば終わってくれる恥辱の瞬間が、どれほど悶えても迎えられない。
 迎えられるはずがない。この先に待っているものは、今よりもさらに恥ずかしい極限の羞恥なのだから。
「そ、そんな……そんなところまで見られちゃったら、わたし、わたしぃ……」
「いやぁ。いっぱいガマンしたからすっごい乱れよう。かわイヤらしいよ、桂木センセ♪ うぷぷ、竹丸にも見せてやりたいな~」
「!? ダ、ダメっ!」

 桃色の霧をさまよっていた意識が、その一言でわずかに理性をとり戻した。教師としての自尊心が、絶望と官能をさらに深める。
「ダメよ、ダメ……それだけは、それだけは許して……」
「えー? どうしよっかな~」
「お、おねがい、菊丸くん。ぁぁぁ、き、きくまる、くぅん……」
 竹丸にだけは見られたくない。絶対にダメだ。そんなことになったら、自分は教師に戻れなくなってしまう。本当に菊丸の、男たちの性玩具になってしまう。痴漢どころか手を触れられただけで、息をかけられただけで、顔を見られただけで感じるような、性を貪る浅ましいメスに堕ちてしまう……。
 あまりにも甘美な未来に悶えるばかりの女教師に、菊丸は救いの手を差しのべた。
「ぬっふっふ。じゃあ、ちゃーんとカメラ見ててくれる?」
「え……?」
「先生の一番カワイイ瞬間、真正面からばっちり撮りつくしてあげるからさ♪」

「そ、そんな……っっっ」
 だが、それもしょせんは悪魔の手。絶望に目を開いた表情まで、菊丸はすべて記録していく。
「目も閉じちゃダメだよ? レンズの向こうにいるお客さんを想像して、みんなの期待に応えて、恥をさらして見せつけるような感じでね~♪」
「そ、そんな、お客さんに、恥をさらすだなんて……」
 それではまるでストリッパーではないか。知らない男たちの前で浅ましい淫欲を見世物にするなんて、女としてあるまじき淫らすぎる行為だ。
 いや、商売なら金銭のためと割りきることもできる。自分はそうではない。教師だ。聖職者だ。穢れのない少年少女を清く正しく導く役割を与えられた、模範となるべき存在なのだ。
 その自分が、教え子に弄ばれて欲望に蕩ろけた浅ましすぎる姿を、女の最後の瞬間の表情を、男の獣欲を満たすために晒し見せつけ恥をかきつくすなんて――。
「ダ、ダメ、やっぱり、こんなのダメよ。は、恥ずかしすぎる……こんな、こんなイヤらしい顔を、そんな、たくさんの人に見られるなんて……っっっ!」
 考えただけで果ててしまいそうになり、慌てて言葉と息を飲みこんだ。髪一本、紙一枚、シャボンの膜めいた儚い限界にすがりつき、辛うじて辛うじて踏みとどまる。

 こんなことで達してはいけない。せっかくここまでガマンにガマンを重ね、限界を遥かに越えた快感で心も体も満たしつくしたのだ。もう少しで、ニヤけきった陵辱者が、最後に相応しい極上の辱めを与えてくれる――。
「それじゃ、トドメいきますよ~」
「……え? あ……」
 一瞬よぎった忍耐の理由、心の奥底の願望と迫る圧倒的な絶望に、慶子は軽く混乱した。
「イ、イヤあああ! ゆ、ゆるして! きくまるくんっ! わたしっ、わたしっ!」
 だが、もう葛藤する余裕もない。
「ポチっとな♪」
「ひぃっ……!?」
 待ち焦がれた衝撃は、あまりにも軽い言葉と、心底楽しげな手つきによって与えられた。

 カメラの向こうで笑っている口が、脂ぎった肉厚の唇が、低周波の刺激に形を変えて淫核を守っていた包皮を無遠慮に割り開く。
「っっっ……!!」
 燃えるような快感によって充血しきった肉の蕾は、ジュルリと音を立ててヌルヌルに濡れた口内に吸いこまれた。
「――ぁぁ――!!!」
 無防備な官能の中心を待ち受けていたのは、硬い歯による優しい甘噛みと、強い吸引によるさらなる強制勃起。そして、何枚もの、何十枚もの、何百枚もの舌による、途切れることのない蹂躙。
「~~~~~っっっぁぁああアアア!!!」
 強く、弱く、優しく、激しく。もっとも敏感な淫欲の中枢を何百人もの菊丸に舐めしゃぶり尽くされる。その快感は限界を遥かにこえて蓄積された快楽の火薬に一瞬で火を伝えきり、

「ふああああああああああああああああああああああアン!!!!!」

 ついに、ついに美貌の女教師を、羞恥の絶頂に至らしめた。

「おっほぉぅ♪ イイよ、先生、カワイイよ~♪」
「あああああっ、は、ぁ、イヤあああああああ! ン、クぅ、う、うああああああアン!!!」
 快感の大きさをしめす悲鳴のような嬌声は、一瞬では終わらずしばらく続いた。絶頂の爆発はたった一度で終わるものではなかったからだ。
「ああ、ああああぁぁぁ、うあああぁぁぁぁン…………あ、あぁ、ぁぁぁぁぁ……ぅ、ぁぁ? な、なに……? うそ……こんな、こんな、のって……っ? ああっ!? イ、イヤ、また、またく、る……っ! ああっ、ひああ、あああああああぅぅン!!!」
 二度目の爆発は一度目よりもさらに大きく、ほんのわずかな抵抗もなくした心を砕かんばかりに爆ぜ広がった。絶頂に震える淫核を、低周波は最初よりも強い刺激でさらに嬲る。吸いあげられて完全に露出した肉の蕾は、超高速で振動する百枚の舌にねぶられた。代わる代わるではなく、百人から一斉に犯される。
「あああ! ふああああ! や、イヤあ! とめてっ! もう、とめてぇぇ!」
 刺激は女の中心からだけではなく、全身のいたるところから送られてきた。乳房を、乳首を、尻肉を、すぼまりを、百人の菊丸にすみずみまで蹂躙される。
「こんなっ! こんなのぉ! おかしく、おかしくなる! おかしくなっちゃ、うぁ、ハあああああアアン!!」
 激しく体を痙攣させ、何度絶頂に達しても、悪魔は陵辱の手と舌を止めようとはしなかった。慶子の体に蓄積された快楽と羞恥を一滴残らず搾り取ろうとでもいうように、極限の羞恥を晒させ続ける。

「うほほぉい♪ 先生、すっごくガマンしたもんね。そりゃ、一回ぐらいじゃ収まらないよな~」
「そんな! と、とめて! こんな、の、わたし、ダメになっちゃう……!」
「そんなこと言われてもね~。先生の体がイヤらしすぎるからいけないわけだし。自業自得ってやつ?」
「だ、だれがっ」
「でも安心してよ、先生。恥をかき続けてるところ、全部バッチリ撮れてるからっ」
「あっ!? や、イヤあ! こんな、こんなところまで撮られて……!」
「ぐふふ、そんなこと言いながらちゃーんとカメラから目を離さないんだから、先生は正直者だなぁ」
「それは、だって、だって……!」
 イヤイヤと首を振りながらも、慶子は無機質な視姦者から決して目を離そうとはしなかった。いや、できなかった。見られていると思いこんだ女の本能が、それ故に燃えあがる恥辱と官能に囚われてしまい、女教師の理性を残したまま、圧倒的な快感を貪欲に貪っていたからだ。
 見られている、撮られている、男の玩具にされている。電子の瞳の輝きにそんな思いを蘇らせられるたびに、慶子はさらなる高みに無理矢理おしあげられてしまう。
「ひっ! く、ふぅぅぅぅゥ! ぅあっ、あっ、あっ、はあああアぁン!!!」
 押しよせ続ける快楽の怒涛に翻弄されることしかできなかった。いっそすべてを忘れて堕ちてしまえれば楽になれるのに、だらしなくニヤけた悪魔の笑みと無機質で無遠慮な陵辱者たちの視線が、慶子の尊厳に最後の抵抗を強い続けてくる。
 理性の葛藤と屈辱、そして死にたくなるほどの恥辱までも、男たちを悦ばせているだけ。
 それがわかっていながらも、慶子には恥をかき続けるしかない。
「あぁぁ……はぁぁ……あっ、フぁンっ! ――っぁぅぅはぅぅン……」
 美しい女教師のまま、神聖にして敬われるべき聖職者のまま、慶子はどこまでも昇りつめた。愛する男にしか見せてはいけない痴態のすべてを、教え子と見知らぬ男たちの前で晒しつくした。
「……はぁ……はぁ……ぁぁ…………ぁっ……ぁぁぁ…………」

 終わることのない絶頂で次第に意識がかすれていく。快楽の火をくべられ続けた体がついに融けてしまったかのような錯覚の中、自分のすべてを知りつくした男のイヤらしい笑みが、どうしようもなく心に刻まれていく。
「……ぁぁ……ぁぁぁン……きクまる、くぅン…………」
 淫欲に融かされた24歳の女教師は、教え子の名を甘く呟き、最後の最後まで無機質な瞳を見つめ続けたまま、安らかな眠りに堕ちていった。

 その日の夕刻。休日のショッピングを満喫した原田いずみは、帰宅の途中で明智家の前を通りかかった。ちょうど開いた玄関から現れたのは、疲れた様子の担任教師であった。
「あれ? 桂木先生」
「あ、あら、いずみさん。こんばんわ」
 軽い呼びかけに強い驚きが返される。いつもより硬い印象のスーツ姿であるのに、その挙動は妙におどおどして見えた。
「どうしてお休みなのに菊丸くんの家に? またなにかしでかしたんですか?」
「い、いえ、別に、なにも……」
「なにもしてないよ。ひどいな、いずみちゃんは」
 その後ろから疑惑の主が口を尖らせて現れる。多少拗ねて見せたところでまったく同情の思いは浮かんでこない。
「なにがひどいのよ。日頃の行いが悪いから疑われるんじゃない」
「ちぇー」
「兄ちゃん、桂木先生に勉強おしえてもらってたんだよ」
「あら、竹丸くんも一緒だったの」
 だが、続いて現れた弟の姿に、いずみは態度をやわらげた。出来の悪い兄とは似ても似つかないかわいらしい少年の存在に、ならば菊丸もおかしなことは出来なかっただろうと根拠もなく安心する。
 キラキラと輝くまなざしがそんな思いを強くした。
「先生すごかったんだよ。兄ちゃんぜんぜん頭あがらなかったんだから」
「へえ」
 視線を追って担任教師を見やる。スマートなスーツを着こんだ慶子の姿は確かに教育者然としたものだった。いつもは菊丸のイタズラに翻弄されているが、やはり先生なのだと尊敬しなおす。
「さすが桂木先生。本気になれば菊丸くんなんて簡単にあしらえるんですね」
「え、ええ……」
 含みなく褒めたつもりなのに、なぜか慶子は困惑していた。視線を恥ずかしげにそらし、情けなさそうにうつむいてしまう。
「そりゃそうだよ。だってぼくは先生の生徒だよ? 教師が教え子のイタズラにいいようにされるなんて、そんなわけないじゃない」
 どうしたのかと浮かべた疑問は菊丸の声に散らされてしまった。自らを低く置いているはずの言葉は、しかし妙に誇らしく聞こえる。
「いつもはぼくのお茶目なイタズラに笑ってつきあってくれてるんだよねー?」
「こ、この……」
 ニヤけて問いかける菊丸に、慶子は頬を赤めたまま悔しげに呟いていたが、いずみの視線に気づくと咳払いを一つしていつもの調子に戻っていた。
「そ、そうよ。子供のイタズラぐらいでイチイチ怒りません」
「そうだよねー。神聖な教育者だもんねー」
 気丈にふるまってはいるが、その様子にはどこか余裕がない。逆に、からかう調子で持ちあげる菊丸は妙に楽しげだ。
 覚えた不審のまま、いずみは思わず慶子の心を見てしまう。
(え?)
 並んで立つ二人は太い鎖で結ばれていた。一端は菊丸がしっかりと握りしめ、もう一端は慶子が首に巻いた黒革のベルトにつながっている。まるでペットとその主人だ。黒く硬く重そうな鎖は絶対の上下を示しているよう。
(なに、これ?)
 いずみは他人の心をイメージで見ることができる。つまり、これは担任教師である桂木慶子の心象なのだ。ただ、その像が具体的にどのような意味をもつのかまではわからない。しかし、これではまるで、菊丸に隷属しているようではないか――。

「じゃ、じゃあ、私は失礼するわ」
「え、あ、はい。……あの」
 不審げないずみの視線に気づいたのか、慶子は慌てて別れの挨拶を済ませようとした。なにかを問いかけられる前に自ら話を他に振る。
「竹丸くん、バイバイ」
「さよなら、先生。また来てね」
「そ、それは……」
 少年に向けられた期待の声に、慶子の頬が赤味を増す。にこやかに言葉を返しはしたが、その声は焦りどもっていた。
「え、ええ。機会があれば、ね」
「先生は真面目だからなぁ。ぼくの成績が落ちたら来ざるをえないんじゃないかなー」
「っ……」
 なぜか妙にイヤらしく感じる菊丸のニヤけた笑みには、声をつまらせるだけで答えない。
「それじゃ、お邪魔しましたっ」
「あ、先生――」
 そして逃げるように去ってしまった。結局、心の様子に関してはわからずじまいだ。いずみは担任教師の後姿を不審のまま見送りながら、嫌な予感を隣に問いただした。
「ちょっと、菊丸くん。また先生に変なことしたんじゃないでしょうね?」
「もう、いずみちゃんはなんでぼくのことそういう風に言うのかな。今日はもう、メチャクチャ真面目にやってたんだから」
「どうだか」
「いやぁ、大変だったけど充実した一日だったなぁ。実験もうまくいったし」
「実験?」
「あ、いや、勉強だよ、勉強。今度いずみちゃんにも教えてあげるからね~。な、竹丸」
「うん!」
 会心の笑みを交わす兄弟の異常なまでに楽しげな様子に、いずみは首を傾けるばかりであった。

「……はぁ」
 帰りついた自宅の一室で、慶子はスーツ姿のままぺタリと座りこみ、深い深い溜息をついた。また、また菊丸のいいようにされてしまった。それも、あんな屈辱的な行為で、いつも以上に激しく乱れてしまうなんて……。
「あぁ……」
 帰り際にいずみと交わした会話を思いだしてますます気が沈んでいく。菊丸のからかいも拍車をかけていた。彼らと出会ったころならば、確かに他愛もないイタズラで済ませていただろう。少しエッチな行為も大人の余裕であしらえたはずだ。
 しかし、今ではそれができない。菊丸は悪魔じみた手腕で自分の快感を無理矢理ひきだし、はしたなく乱れさせてしまう。今や彼にイヤらしいことをされると予感しただけで、胎の奥に恥ずかしい疼きを覚えてしまうほどなのだ。こんな状況で毅然といましめられるわけがない。

 教え子に教師の自分が翻弄されるなんて。情けなくて涙がでそうになる。痴漢にすら感じてしまうほど敏感な自分の体が忌まわしい。いや、この感度だって、すべて菊丸に教え仕込まれたものだ。感じる快感は日ごと増しているような気すらする。最近ではどうしようもなく自分を慰めたときも、後にもの足りなさが残るばかりになっていた。このまま彼に関わり続けたら、自分はどうなってしまうのだろう。
 恐怖で体が震えていた。あるいは、認めたくない甘美な予感に。
「……でも、竹丸くんには気づかれなかったわ」
 わずかに湧きあがった本音を打ち消すように、最悪だった一日の中で守りぬいた、たった一つの成果を誇った。
 一時間も続いたのではないかと感じられた絶頂の嵐であったが、現実にはごく短い時間だったらしい。慶子が意識をとり戻したのは飲み物をもった竹丸が居間に戻ってきたのとほぼ同時だった。クリーニングから返ってきた服を手渡してくる少年は本当に嬉しそうで、無邪気なその笑顔にどうしようもない羞恥を覚えながら、短い礼だけ残して風呂場に飛びこみシャワーを浴びて着替えを済ませた。
 恐る恐る戻った居間で、竹丸は変わらぬ調子で迎えてくれた。直前までの自分の不審を問いただすこともなく、もってきたコーラを勧めてくれた。なにも思わないのかと少し不思議に思ったが、自分の淫らな様への疑問を確認することなどできるわけもなく、帰宅の時までそのまま平静を装い通した。おかげで菊丸への制裁も行えなかったが、それはしかたがない。最低限の処置はできたのだから。
「……ふぅ」
 溜息をつきながら、なんとか取りあげることのできたメモリーカードを見る。菊丸の構えていたビデオのデータだ。再生装置を持っていない慶子に中身を確認することはできなかったが、たとえあっても見るつもりはなかった。今日の痴態は思い返しても恥ずかしすぎる。誰かの目に触れることがなくて本当によかった。レンズの向こうに架空の人目を意識しただけでアレほどまでに乱れてしまったのだ。本当に見知らぬ男たちの目にさらされ、世界中に自分の恥が公開され、すれ違う人たちからイヤらしい視線を投げかけられたりしたら、どれほどの快感に犯されてしまうかわからな――。
「な、なにを考えてるの? わたしったら……」

 今日何度目になるかわからない妙な妄想を振り払う。もう終わったことなのだ。データを取りあげた以上、今日のことでちょっかいを出されることはない。明日からはまた教師として働いていくことができる。健全な青少年を育成する聖職者としてがんばらなければいけない。菊丸のような不真面目な生徒も更正させなければいけないのだ。あの、淫らな自分を知り尽くし、簡単に狂わせてしまう教え子も。
「……さあ、明日の準備をして休まなきゃ……あら?」
 身だしなみの品をとりだそうとハンドバックを開けると見知らぬ箱が目に入った。高価なチョコレートでも入っていそうなしっかりとした作りだが、封がされているわけではない。持ちあげると簡単に開いた。
「なにかしら、これ――っ!」
 さしたる警戒も抱くことなく開けてから、自分が今までいたのが誰の家かを思いだす。
 菊丸の魔の手の蠢きは、まだ終わっていないのだった。

 明智家の竹丸の部屋は完全防音処理が施されている。あるのは小さなベッドが一つに、さまざまな材料や工具が雑多に広げられた大きな机。その他には冷蔵庫大の妙な機械や電子レンジのような箱がいくつも重ね置かれていた。壁は科学工学の本が並んだ棚が埋めていて、狭い部屋をますます狭くしている。
 兄弟はその中で、編集したデータを確かめるべく、一つのモニターを食い入るように眺めていた。

『ひっ? ふ、アんっ』
『や、いやぁん! やめ、あ、ああん!』
『だ、だいじょうぶよ……ぁぁっ……なんでも、ないわ……っ』
『あああ、ハあああぅあン! ――こんな、こんなの……!』
『先生は、先生なのよっ。そんな、エッチなわけ、ないじゃ、なあああああアァン!』
 ハイビジョンの画面に映しだされた女教師は、甘く蕩けきった表情で切なく淫らな鳴き声をあげていた。目線はすべて正面を見つめたまま、乱れた表情を自ら見せつけているようですらある。まるで相手の顔を見ながら撮影したかのよう。
 いや、事実その通りなのだ。
「うわー。桂木先生、かっわい~い」
 淫らなセリフを目の前で聞いていた者の片割れ、竹丸がモニターにかじりついたまま、一回り以上も年上の女教師を自慢のペットのように褒める。

『ふああああああああああああああああああああああアン!!!!!』
 竹丸に褒められたのに合わせかのごとく画面の女教師が甲高い鳴き声で叫ぶと羞恥に朱に染めた美貌を、それでも約束どおり正面を見据えてカメラに女の恥をかく姿を見せ付けていた。
「あ、ここでイっちゃってるよねっ。目なんかすっごく恥ずかしそうに潤ませてるのに、ぼくに見られたくないからガマンしてカメラ見続けたんだ。ずっと目線はずしてないよ。う~、健気でかわいくてイヤらしいな~」
「そうだろう、そうだろう」
 弟の素直な感想に、兄は誇らしげに説明を付け加えた。
「こんなにイジメがいのある先生はそうそういないぞ? まぁここまで感じるようになったのはぼくの日々の努力の成果だけどな」
「さっすが兄ちゃん。すごいなー」
「その成果をこうして確かめられるのはお前のおかげだよ。このメガネのカメラ機能、自信ないなんて言ってたのに完璧じゃないか。ビデオのデータもちゃんと本体にコピーされてたし」
 菊丸は弟を褒めながら、慶子を嬲っている間ずっとかけていたメガネを愛しげに撫でた。ブリッジ部分に極小のCCDカメラを仕込んだ特別製の逸品である。竹丸がかけていたのも当然同じもの。
「なによりあの低周波ブラとパンティ、すごかったぞ。先生ものすごく気に入ってくれたみたいだ」
「本当?」
「本当だとも。まぁ使いかたがややこしすぎるから、兄ちゃんぐらい使いこなすのはお前じゃちょっと難しいかもしれないな」
「うーん、そうなんだよね」
 淫具の欠点を指摘され、竹丸は幼い顔を難しくしかめた。そう、メガネ型カメラも低周波下着も、この小学生が造りあげたもの。周囲には秘密にしているが、竹丸は電子工学の天才児なのだった。
 兄の趣味に引きこまれた弟は、その才能を菊丸のために役立てることに無上の喜びを覚え、女の子に快感を与えることに至上の楽しみを見いだしていた。
 そんな弟を、菊丸も心底かわいがっている。担任教師に対して純情なフリを貫かせ、自尊心を保たせ続ける役目を与えたのも、彼に楽しみを分けるためだ。
 菊丸は悩む弟を気づかい、頭を優しく撫でてねぎらった。
「なに、お前ならもっともっとすごいモノをたくさん作れるさ。おかげで菊丸コレクションがもっと充実するよ。いや、これからは明智コレクションだな。兄弟二人で作っていくんだから」
「兄ちゃん……」
 優しく天才的にスケベな兄を、弟は心から尊敬していた。慶子に向けていたのと同じ、しかし演技ではないまなざしで、褒められた喜びを嬉しそうに伝える。
「うんっ、ぼくもっとがんばるよっ。もっともっと勉強して、もっともっと女の子をキモチよくさせてあげるんだ!」
「よく言ったっ。それでこそぼくの弟だっ」
「兄ちゃんっ」
 ひしと抱きあう兄弟の姿は、そこだけ見ればほほ笑ましいものだっただろう。担任教師の嬌声が響く中、その痴態を観賞しながらでさえなければ。
「そういえば例のアレ、先生のバックに入れたか?」
「うん、ばっちり」
「そうかそうか。ぐふふ、今度はお前にもっとオイシイところ任せてやるからな」
「わーい」

 自らを弄ぶ悪魔たちがさらに進化していることを、慶子は知るよしもない。
『……ぁぁ……ぁぁぁン……きクまる、くぅン…………』
 超高画質なモニターの中では、たっぷりと痴態を貪られた女教師がさらなる陵辱を心待ちにするかのように、トロけきった表情を晒して深い眠りに堕ちていた。

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