「菊丸の必中射的術!!の巻」

こんにちは。
今日はサクラ祭りの日。
丸くんが夜店でアルバイトをしてるっていうんで、リンダと様子を見に来たんです。
「オウ、ニホンノサクラ、スバラシイネ!」
ライトに照らされる夜桜の幻想的な美しさに感動するリンダを連れ、菊丸がアルバイトをしているという射的場を探していると、いずみは雑踏に立ちすくむ母子連れを目にする。
「あの、どうされたんですか?」
「いえ、それが‥」
携帯電話を手に困惑した風の母親に声をかけた。
なんでも子供を連れて出てきたのはいいのだが、まだ会社にいるという夫から急いで家にある書類を持ってきて欲しいと頼まれたのだという。
用事を済ませてからでは祭りも終わってしまうだろうし、子供を放ってもおけないと、途方に暮れていたのだ。
「それならわたしたちがお子さんの相手をしていましょうか?」
「ソレガイイネ!」
聞き終えたいずみの提案にリンダも頷いている。
「でも、そんな‥」
見ず知らずのあなたたちに迷惑をかけるわけには、と首を振る母親に、困ったときにはお互い様ですよ、と笑いかける。
「ね、お姉ちゃんたちと一緒にお祭り見物しようか?」
しゃがみ込んでまだ小さな少女に尋ねると、少女は元気いっぱいに頷くのだった。
「へえ、それでこの子を連れて来たんだ」
事情を聞いて感心しているのは、頭に鉢巻を巻いてテキ屋と化している菊丸である。
少女はリンダと一緒に物珍しそうに、的棚に並べられた景品を見ている最中だ。
「なにか欲しいものでもある?」
菊丸に尋ねられ、少女は目をキラキラさせながら大きな熊のぬいぐるみを指差す。
「あれかー」
ちょっと困った顔をする菊丸。小さな景品程度なら渡してもよかったが、あのぬいぐるみは目玉の一つで簡単に渡すわけにはいかなかったからだ。
「なによ、あげればいいじゃないの」
「そうはいっても、ぼくもアルバイトだし。それにアレけっこうするんだよ」
いずみの言葉にますます困った顔をする。いずみも値段を聞いてさすがに押し黙ってしまった。
「それじゃ、わたしが撃ち落とせばいいのね」
「うん、それならなにも問題はないけど」
銃を渡され、軽く引き金を引く。しかしコルク弾が当たったにも関わらず景品はグラッと揺れるだけで、落ちる気配すらない。
二度、三度と続けても同じ結果であった。
「もう、なによ! 落ちないようにできてるんじゃないの、菊丸くん!!」
「そんなこと言われたって、ぼくのせいじゃ‥」
菊丸に言っても仕方のないことはわかってはいても、こうもあからさまでは文句の一つも言いたくはなる。
まだ時間がかかりそうだと踏んだいずみは、少女をリンダに任せて自分はなんとしてもぬいぐるみを手に入れるつもりであった。
「当たっても落ちないのは威力が足りないからなんだ。だからもっと的に近づかないと‥」
「そんなこと言っても、これ以上近づけないわよ?」
菊丸に言われるまでもなく、精一杯に腕を伸ばして撃っているのである。それで景品に当てても一向に落ちないのだ。
「だからもっと近づくのさ」
「きゃあっ」
ドンと背中を押されていずみは射的台の上に倒れこんでしまう。
続きはfantiaから
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