「獅子舞でてんてこ舞い!の巻」

みなさん、あけましておめでとうございます。
え、なんでそんなに疲れてるのかって?
それがね‥
「ふわぁ‥すごい人」
「ほんと、これじゃお参りするだけでも一苦労ね‥」
いずみは菊丸の呟きにやや、げんなりとした声で応える。
だが、その声も辺りに響く喧騒によってかき消されていってしまう。
わたしたちも今日はお正月ということで初詣に来たの。
でも、この人混みでわたしも菊丸くんももう疲れだしてきちゃって‥。
「はぁ、いずみちゃん。もう帰ろうか‥」
菊丸くんがこう言い出してきたのに、わたしもさすがに反対する事も出来なくなっちゃってるのよね。
もともと、菊丸くんが誘ったんでしょ‥心の中で呟きはしたけど、ね。
「そうね、もう帰りましょうか。‥一応御参りも済ませた事だし‥」
疲れた声でいずみも応対しながら、その実身体の方は早くも人の波に逆らって帰り支度を始めていたりもしていたのだが。
と、その無理な動きがたたったのか。
ドン!
いずみはバランスを崩し、人にぶつかってしまったのだ。
「うわっ!」「きゃっ!」
いずみはその反動で地面に倒れ込んでしまう。
「あいたた‥」
「い、いずみちゃん! 大丈夫?」
さっそくいずみに駆け寄る菊丸。調子に乗ってそのままお尻を撫で上げる菊丸。
「‥あっ! アン‥な、なにするのよっ! このっ!」
パカンッ!
「あいたっ! ‥ひどいなぁ、せっかく手当てをしてあげてたのに‥」
などとぶつぶつ文句を言う菊丸をキッと睨みつけてから、いずみは同じように地面に倒れこんでいる相手に駆け寄ってゆく。
「あいたたた‥」
「あ、あの、すみませんでした、よそ見をしてて‥だ、大丈夫ですか?」
年の頃は50前後であろうか、腰を押さえていまだ、立ち上がることも出来ない男はいずみの言葉に手を振って応えている。
恐らくは大丈夫。と言う事なのだろうが、よほど打ち所が悪かったのだろう。どう見たところで大丈夫そうには見えない。
「ごめんなさい、わたしのせいで‥」
「いや、なにも君のせいだけじゃないからね。私も不注意だったし‥」
俯くいずみに男も慰めの言葉をかける。
それだけにいずみも責任を感じてしまう。
益田と言うこの男の怪我は確かに大した事はなかった。一日も経てば何の支障も無いほどのものだ。が、その一日が拙かった。
益田は今日、獅子舞を舞う為に呼ばれてきたのである。
獅子頭となる以上は腰を酷使する事になるわけであるから、これはどうにもならない。
「しかし困ったな。私がこうでは獅子舞を踊るものがいなくなってしまうし‥」
いずみを責める訳にはいかないのだが、どうしたところでこの状況は変えられない。重い空気が二人を取り巻く中、菊丸が張りのある声を上げだした。
「獅子舞を出せればいいんですね! それなら、ぼくといずみちゃんに任せてください!」
「ちょっ、菊丸くん?!」
頼もしく胸を叩いて安請け合いする菊丸にいずみの驚愕の声が重なるのだった。
「あ~ん、確かにわたしのせいだけどこんなことになるなんて」
「しょうがないだろ、いずみちゃん。それともあのまま放っておいても良かったの?」
「そ、それは‥」
責任は自分にあるのは明らかであるのだから、菊丸の言い分に言葉が詰まってしまう。それに、いくら文句を言おうにも既に獅子に扮している身では遅いと言うものだ。
菊丸の提案に最初、渋っていた益田であったが今から代わりの人間を呼ぶ事も出来ず、かといって恒例行事外す事も出来ぬとあって結局は菊丸の案に乗ることにしたのであった。
簡単な説明と、指示を出し一応の動きを見て取りあえずの合格としたのである。
そしていずみは獅子頭として、菊丸は胴の役を果たす事になったのだ。
いずみと菊丸の扮する獅子が道に舞出ると人だかりから一斉に歓声が巻き起こる。
わぁっ!
それを合図に太鼓の音が鳴り響き、なぶりこが獅子を追いまわし始める。
「始まったよ、いずみちゃん」
「わ、わかってるわよ、え~と‥」
外で聞こえる張りのある鼓の音、そして狭い視界の中に映るなぶりこの動きに合わせていずみは獅子頭を内に回し始める。
太鼓の見える位置が右に当たるのだからこの場合は左に巻き込んでゆくのだが、なぶりこも意識しなければならず骨が折れる。
トントコトコトコトントコトーコ
トントンカラカラカラカラカーラ
トントンカラカラカラカラカーラ
トントンカラカラトガラカラーカ
トガラカトガラカトガラカラーカ
そうする間にも鼓の音は軽やかに響き、いずみは忙しく獅子頭を動かしてゆく。
(いずみちゃん、忙しそうだなぁ‥あんなに汗かいて‥そうだ、この状況を利用して‥)
夢中になって獅子頭を操るいずみは、後ろの菊丸に注意を払う余裕が全くなくなっているようだ。
一心不乱に益田に怪我をさせた責任を果たそうとしているのだろう。
菊丸はしかし、そんないずみに悪戯を仕掛けようとしているらしかった。
鬼だ。
(ふぅ、一時はどうなる事かと思ったけど‥なんとかなりそうね)
勢いのみではあろうが、取りあえず思っていたほどに失敗を人前に晒さずにすみ、ホッと一息ついている。
菊丸という存在が後ろについているというのに。
甘い、そういうしかないであろう。
甘さのツケはすぐに来た。
「いずみちゃ~ん、動きが段段甘くなってきてるよ~」
背後からの不気味な声音にハッとして首だけで振り向くいずみ。
「な、なに? 菊丸くん」
「ほら、頭が二つ出来ちゃまずいでしょ。もっと頭を下げないと‥」
菊丸は言うなり、いずみの背中に覆い被さるように重なってきた。
「きゃっ! 菊丸くん、な、なにをっ」
いきなりの菊丸の行動に驚いて動きが止まってしまう。
「ほらほら、動かないと駄目でしょう、いずみちゃん」
「あ、こらっ! 菊丸!」
菊丸の意図を察したいずみが叱咤の声を上げるも、時既に遅し。
いずみは菊丸の手中に落ちてしまうのであった。
(でへへ~、うまくいったぁ!いずみちゃん、これで逃げられないもんね~♪)
にへら、といつもの笑いを浮かべるとさっそく幾多の経験の中で磨きぬかれた手腕を発揮し始める。
「‥あっ!」
ピクンと菊丸に抱えられた身体が跳ね上がる。
「ちょ、ちょっと、菊丸っ!」
菊丸は背後からいずみを抱きすくめ、後ろから量感たっぷりの胸を弄び始めだす。
「うっ! ‥く、くふぅっ!」
背後からの刺激にいずみは声を噛み殺そうと唇を噛み締めるのだが、それでも洩れ出る声を止められない。
「こ、こらぁっ!菊丸っ、やめなさ・・いっ、いやぁっ・・」
いずみの怒声も菊丸が胸に宛がう手の動きを強めるだけで、遮られてしまう。
「いずみちゃん、もっと動きを良くしないと‥」
「ば、馬鹿ぁっ!だからってこんなやり方‥あっ!ああっ!」
「こうしないといずみちゃんに動きを伝えられないんだよ」
ぐにぐに、といずみの胸を揉みし抱き無茶苦茶を言う菊丸。
「あ、あんっ!」
いずみは胸を揉まれる度に可愛い声で鳴いてしまう。そしてその度にいずみの操る獅子頭も右に左にと動いていく。
「そうそう、いずみちゃん、その調子その調子!」
「馬鹿ぁっ! ‥あっ!あうっ!」
菊丸は調子に乗って、いずみの胸を責め立てる。しかし、調子に乗りすぎたようである。
ドンッ!
いずみの操る獅子頭は激しく動きすぎ、ついには獅子を追うなぶりこにぶつかってしまったのである。
「あ、きゃああああっ!」
「なんだぁっ?!」
「中から女の子が?」
辺りは突然の結末に騒然となり、周り中が混乱してゆくのであった。
「わ、わあああっ! い、痛い痛いっ!」
叫びを上げているのは菊丸である。
菊丸は幾匹もの獅子に囲まれ、身体を噛まれているのである。
かつかつ!と高い音を響かせ幾度となく菊丸に噛み付いてゆく獅子たち。
その度になんとも情けない悲鳴を上げる菊丸であった。
「い、いずみちゃ~ん、もう助けてよ~!」
「あら、獅子舞に噛まれると厄が払えるって言うし、菊丸くんにはちょうどいいでしょ。ゆっくり堪能したら?」
「そ、そんな~~~~」

みんなが楽しみにしていた獅子舞であんなことして! ああ、もう今年も思いやられるわ
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