「あぶない我慢大会?!の巻」

今日はわたしたち我慢大会の会場に来てるんです。
え、なんでそんなところに来てるのかって? じつは‥
三日前。
「ほら、また間違えてるっ! まったくもう、やる気あるの? あんたは」
週三日の家庭教師の日。
相変わらず覚えの悪い教え子の様子に苛立ちを隠せず、丸めた教科書で菊丸の頭を叩きつける水森さやか。
「あいたた‥。う~、先生、あんまり叩かないでよ、バカになっちゃう」
「これ以上悪くならないわよ、あんたの頭は」
「ひ、ひどい」
「ほら、いいから次の問題を早く解いて」
家庭教師とはいえあまりの言葉に涙を浮かべる菊丸だが、さすがにこれまで30人を志望校に合格させた家庭教師は、嘘泣きをあっさりと見抜いてしまっていた。
「うぅ、先生はちょっと短気すぎますよ。生徒に対してもっと我慢強く教えてくれないと」
「なによ、あんた生徒のクセに‥」
生意気な口を叩く生徒の胸倉を掴み上げ、いかにも気の強そうな瞳が細められる。
「そういうところが駄目なんじゃない」
「なんですって‥っ?!」
そこに一緒に勉強を教わっていた千春が口を挟み、さやかの強い視線が菊丸から千春へと移る。
「ちょ、ちょっと千春?!」
「いずみは黙ってて!」
親友の挑発的な物言いを宥めようとするいずみだったが、千春も菊丸に辛辣すぎるさやかに対して怒りを抑えきれなくなっているのだった。
なにかと因縁のある二人だけに、視線は絡み合い今にも爆発しそうな勢いになっていく。
「まぁまぁ、水森先生。ここはこの大会で我慢強いところを証明してみてはどうでしょう?」
一触即発の空気の中、とりなすように割って入った菊丸が示したのは町内で開かれる我慢大会のチラシだった。
「馬鹿馬鹿しい。そんなのただのお祭りじゃないの」
「そんなこと言って優勝する自信がないんでしょ?」
「なっ‥?! 言ったわねっ、いいわ。これに出てわたしが短気じゃないってコト教えてあげようじゃないっ」
目を細めて笑う菊丸の一言に眦を吊り上げてチラシを机に叩きつける短気な家庭教師なのだった。
というわけで、水森先生の応援にやってきたってわけ。
「水森先生、どうですかあ、調子の方は」
「いいわけないでしょ」
出場選手控え室に顔を出した菊丸たちを迎えたのは仏頂面の家庭教師である。せっかくの休日をこんな大会で潰されることになったのだから、当然だ。
「う~ん、そんな顔して。これから本選が始まるんだし、もっと愛想よくしないと」
「あのねえ。あんたにそんなこと言われたくないわよ」
「菊丸くん、どうせ優勝なんてできっこないんだから、心配してもしょうがないんじゃない?」
クスリ、と挑発的な笑みを浮かべているのは千春である。相変わらず敵愾心剥き出しであった。
「なんですって!」
「もう千春っ! ごめんなさい、水森先生。でもせっかく予選通過したんだし、本選も頑張ってくださいね」
「当たり前よ。ここで優勝してわたしが我慢強いことちゃんと証明してあげるわ」
いずみのとりなしに気を落ち着けて、襟を正しながらキッと菊丸と千春の二人を睨みつける相変わらずの気の強さである。
「それじゃ、わたしたち戻りますね」
これ以上はさやかを刺激するだけだと判断したいずみは二人を連れて会場へと戻るのであった。
続きはfantiaから
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